仕事の未来 グローバル 組織 日本で働く海外出身の高度人財に聞く 入社したくなる評価制度とは

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2018.03.20

「労働人口減少の激化が叫ばれるなか、企業は対外的に競争できる評価制度を用意していないと、これから必要な人財を確保することが難しくなります。それは、日本国内だけでなく、優秀な外国人財についても同じことがいえます」
このように名古屋大学大学院経済学研究科准教授の江夏幾多郎氏は、日本企業に警鐘を鳴らす。従来の日本人を評価してきた尺度だけでなく、海外の人財にも受け入れられる評価軸を整備することが求められている。
アデコが2017年10月に実施したアンケート結果によると、日本で働く外国人財が日本の就労環境における「評価制度」について、満足していない現状が浮き彫りとなっている(図1参照)。同様に半数以上が日本企業に「明確な評価制度とフィードバック」が必要と考えていることもわかった(図2参照)。

左:【図1】日本の企業の就労環境で満足している点(複数回答・昇順)/ 業務内容 60.6%、同僚との人間関係 57.1%、労働時間 55.8%、雇用の安定性 53.7%、オフィスの環境・設備 53.2%、上司との人間関係 51.9%、給与 50.2%、福利厚生 42.4%、部下との人間関係 34.6%、教育・研修制度 33.3%、日本人社員の語学力 33.3%、人事制度 29.4%、評価制度 27.7%、その他 5.6% 右:【図2】外国人財が日本の企業で長く働くため、企業に必要だと思うこと(複数回答・昇順)/ 外国文化に対する理解の向上 62.7%、より良いワークライフバランスへのサポート 62.3%、日本人・外国人従業員間の区別の撤廃 60.0%、ビザなどに関するサポート 57.3%、給与の見直し 55.3%、明確な評価制度とフィードバック 50.7%、業務内容の明確化 48.3%、教育・研修制度の充実 48.0%、日本人社員の語学力の向上 43.3%、希望通りの配属 37.3%、宗教を含む、習慣への理解向上 37.3%、その他 1.7%

「しっかりした評価軸を用意しないと、外国人財は『日本では出世することができない』と考えたり、『日本は働きやすい環境ではない』という評判が広がります。優秀な人財獲得に悪影響が出てしまうでしょう」(江夏氏)
では、どのような対策が考えられるのか。ヒューマンバリュー研究員の霜山元氏がそのヒントとなる企業を紹介する。
アウトドア衣料の米パタゴニアは、レーティングを廃止するだけでなく、給与の等級までなくしたという。基本給はそれぞれの職務に対するマーケットバリュー(市場価値)で決定。ボーナスは、事業部の業績と個人の貢献をマネージャー層が判断して、賞与原資を分配する手法をとっている。
「大胆な改革に見えますが、同社が等級をやめた理由の一つが、フードビジネスなど新しいビジネスに挑戦したり、データ活用など新たなテクノロジーを活用するため、既存の等級に当てはまらないような専門人財を採用する必要が出てきたこと。そこで例外的な人事制度をつくるのではなく、全社的に等級を廃止することで、新分野の人財を獲得しやすくしようと考えたのです」(霜山氏)
AI化・ロボティクス化の流れに対応し、評価制度を通したメッセージを市場に伝える米企業のように、日本企業も新たな取り組みを行う必要がある。これからは、日本でも人事評価の見直し機運が高まっていくだろう。

日本で働く外国人の意識調査についてはこちらから

Profile

霜山 元氏
株式会社ヒューマンバリュー研究員

さまざまな企業や行政体・地域において、クライアントと協働して変革プロセスのデザインとファシリテーションを行う。また、自律的な変化を通して、人的価値・事業価値・社会的価値を創造し続ける組織経営の実現に貢献すべく、Webアプリ「Ocapi(組織変革プロセス指標)」の開発や、パフォーマンスマネジメント革新の調査といった研究に従事。訳書に『研修効果測定の基本』(ヒューマンバリュー出版)

江夏 幾多郎氏
名古屋大学大学院 経済学研究科准教授

2008年より名古屋大学大学院経済学研究科講師を経て、2011年より現職。博士(商学。一橋大学)。専攻は人事管理論。主な研究テーマとして、「評価・報酬における公正感・納得感の由来」「人事管理におけるテクノロジーと人事専門職のコンピテンシーの関係」。著書に『人事評価における「曖昧」と「納得」』(NHK出版新書)。