桑津浩太郎氏
株式会社野村総合研究所
研究理事 コンサルティング事業本部 副本部長 未来創発センター センター長
京都大学工学部数理工学科卒業。1986年にNRI入社。野村総合研究所 情報システムコンサルティング部、関西支社、ICT・メディア産業コンサルティング部長を経て、2017年研究理事に就任。ICT、特に通信分野の事業、技術、マーケティング戦略と関連するM&A・パートナリング等を専門とし、ICT分野に関連する書籍、論文を多数執筆。
働く人財としてのデジタルネイティブ世代を見た場合、企業が理解しておくべきことは何か。
デジタルネイティブ世代を特徴づける価値観や行動特性は、データから見いだせるのか。独自の「生活者1万人アンケート調査」などを通じて、デジタルネイティブ世代の特性について詳細に検証している、野村総合研究所 研究理事 桑津浩太郎氏に聞いた。
日本のデジタルネイティブ世代を捉えるうえでまず理解しておきたいのが、その「希少性」(図1参照)だと桑津氏は言う。
IoT技術の発達とネット社会の広がりに伴ってデジタルネイティブは世界中で登場しているが、人口減少が進む日本において、この世代は圧倒的な少数派だ。IoTやフィンテックをはじめビジネスのデジタル化が急速に進むなか、デジタルネイティブ世代の人財を取り込み、その能力を発揮させることは企業にとって欠かせない。しかし、希少な人財であるだけに、獲得競争は今後ますます激化していく傾向にある。
「デジタルネイティブ世代の価値観に寄り添って組織やマネジメントを見直し、いかに彼らに選ばれる企業になるかが、企業の今後の成長性を大きく左右します」
デジタルネイティブ世代は、文字通り、さまざまな種類のデジタルメディアの特性に精通していることが大きな特徴だ。
NRIの「生活者1万人アンケート調査」によれば、スマートフォンの普及率は20代では9割以上に達しており(図2参照)、インターネットやデジタルメディアを生活に欠かせないものと考えている。Facebookを除く主要なSNSの利用率は他の世代と比べて高く、必要に応じてTwitterやInstagramを使い分ける。
特にTwitterは、他の世代との利用率の差が大きい(図3参照)。
NRIがデジタルネイティブ世代にインタビューしたところ、情報発信の手段だけではなく、鮮度の高い情報を友人・知人から収集する手段であり、また短期間で人間関係を深めるツールとして、Twitterを大いに活用していることがわかったという。
「同じ会社への入社が決まった就活生たちにとって、Twitterを活用して互いの理解を高めるのは当たり前。入社前に呼びかけ合って、みんなで旅行に出かけるといった例も珍しくありません。
デジタルネイティブ世代は承認欲求が強いといわれますが、それだけでなく、上下関係や仲間はずれを作らずにみんなで仲良くしたいという志向が強い。若い世代はクールで人間関係が希薄だ、などと捉えていると見誤ります」
ネットコミュニケーションがリアルな生活に及ぼす影響や犯罪への不安など、負の側面への警戒心は少ない(図4参照)。オンラインでの人間関係の構築を、オフラインと区別することなく、躊躇なくできるのはデジタルネイティブ世代の特徴といえる。
彼らはデジタルコミュニケーションに慣れているため、対面での会話が苦手だと思われがちだが、これは一面的な見方だと桑津氏は言う。
「彼らはオンラインとオフラインを区別していないだけ。しかも普段から、情報収集もコミュニケーションも消費行動もすべてスマホで瞬時にこなすので、効率性を重視する傾向が極めて強い。オンラインで済むなら対面での会話は不要だと考えるのです」
マネジメント層である日本の40代・50代のデジタルスキルは世界的に見ても低いという調査結果もあり、上の世代が積極的にデジタルコミュニケーションを活用すべきだと桑津氏は話す。デジタルツールを、対面コミュニケーションを補うものとして用いるのではなく、対面と同等に活用するのだ。
「最近はフィードバックやチェックインなど、上司と部下の頻繁な対話を取り入れる企業が増えていますが、これは対面式の面談である必要はありません。『報告・連絡・相談』も同様。ブログやチャットなどの仕組みを取り入れることで、若い世代とのコミュニケーションは円滑かつスピーディーになるはずです」
情報収集・検索スキルが極めて高い半面、考える前に何でもネットで調べて答えを出そうとしてしまうのもデジタルネイティブ世代の傾向だ。これは必ずしも悪いこととはいえないと、桑津氏は指摘する。
「翻訳ソフトの性能が急速に高まっているため、近い将来、語学の勉強は必要かという議論が出てくるでしょう。他言語を学ぶことの意義はもちろんあるものの、実務レベルでは翻訳ソフトで解決するからです。同様に、ネットで調べれば答えられる程度の知識中心の学びは、今後はあまり意味をなさなくなります。テクノロジーの発達を前提に、教育や研修、評価のあり方を根底から見直すべき時が来たと考えるべきでしょう」
もう1つ、日本のデジタルネイティブの傾向として桑津氏が重視するのが、「高学歴・大企業志向」と「自己実現意識」のバランス感だ(図5・6参照)。
「学歴志向が強かったバブル世代とも、『学歴がすべてじゃない』というゆとり世代とも違う。良い大学を出て大企業に勤めることと、自己実現を目指すこと、この両方をバランスよく重視している。せっかく大企業に入った人が、突然辞めて留学したり起業したりするのも、我慢が足りないのではなく、自己実現のために学歴や大企業でのキャリアを捨てることを、人生の一大事と捉えない身軽さがあります」 そのため今後は、こうしたデジタルネイティブ世代の離職を防ぎ、自社で長く活躍してもらうようなマネジメントの工夫が求められる。
「営業畑や技術畑で3~5年も下積み経験をして初めて評価され、次のステップに上がれるといった人事制度では、デジタルネイティブ世代はすぐに離れてしまいます」(図7参照)。
経済の成熟化やビジネスサイクルの短期化により、あらゆる業界でビジネスモデルの変革が求められている。
1つの目標達成に向けて数年かけて製品・サービスを開発するのではなく、顧客や市場との対話を繰り返し、目標を臨機応変に見直しながら、スピーディーに開発していけるような組織やマネジメントが必要になっている。こうした変化に合わせて、従来のような固定的な組織ではなく、数カ月単位でメンバーが招集・運営されるようなプロジェクト型の組織が増えていくだろう。
デジタルネイティブ世代は、このような新たなビジネス環境でこそ、その能力を大いに発揮する世代だといえる。
桑津浩太郎氏
株式会社野村総合研究所
研究理事 コンサルティング事業本部 副本部長 未来創発センター センター長
京都大学工学部数理工学科卒業。1986年にNRI入社。野村総合研究所 情報システムコンサルティング部、関西支社、ICT・メディア産業コンサルティング部長を経て、2017年研究理事に就任。ICT、特に通信分野の事業、技術、マーケティング戦略と関連するM&A・パートナリング等を専門とし、ICT分野に関連する書籍、論文を多数執筆。