働き方 仕事の未来 グローバル ハイブリッド勤務時代のワークプレイスのあり方とは

2022.02.02

Adecco Groupが2021年に行った働き方についてのグローバル調査では、リモート勤務を経験した人は全体の半数を超え、今後もリモート勤務とオフィス勤務を両立したハイブリッドな働き方が望まれている傾向が見られた。
おのずと、ワークプレイスに求められる機能や役割も大きく変わっていくと考えられる。これからのオフィスはどう変わるのか。働き手に新たに求められるリテラシーとは何か。コクヨ株式会社ワークスタイル研究所所長の山下正太郎氏に聞いた。

仕事が「ローコンテクスト」化
オフィスの場面は限定的に

現在起こりつつあるワークプレイスの変化について、ワークスタイル研究所 所長の山下正太郎氏は、「スケジュール性の有無」と「コンテクスト(文脈依存度)の高低」という2つの軸で整理する。スケジュール性の有無とは、時間を決めて同期的に行う仕事か、突発的に発生するような仕事か。コンテクストとは、非言語的なコミュニケーションが多く求められる仕事か、そうでない仕事かを示している。
「日本は海外、特に欧米諸国と比べると、価値観が共有されていることを前提に文脈を読んだり忖度したりする、非言語的なコミュニケーションを得意としています。つまり文脈依存度が高い、ハイコンテクストの国です。働き方にもそれは反映されていて、職務を限定しないメンバーシップ型雇用が一般的で、上司が部下の仕事ぶりや進捗をリアルタイムで把握しながら仕事を差配したり、評価したりしてきました。文脈依存の高いコミュニケーションが前提なので、オフィスにみんなが毎日出勤して顔を合わせ、互いに調整する働き方を得意としていました」

しかし、コロナ禍によりテレワークが普及した結果、コミュニケーションの機会が減り、社員一人ひとりの職務をある程度明確化したうえで、各自がセルフマネジメントしながら自律的に働くことが求められるようになった。テレワークなので全体的にローコンテクストで、非同期的で進められる仕事にシフトする。これを示したのが図1である。図の右側のように、オフィス勤務が求められる場面は減り、オンラインや自宅・サテライトオフィスなどでの仕事が相対的に増えていくのだ。

図1ワークプレイスポートフォリオの変化

ワークプレイスポートフォリオの変化
  • ハイコンテクストで、突発性の高いノンスケジュールドの仕事が大半
  • おのずと、リアルな対面を前提としたオフィス勤務が中心となっていた
  • 仕事のローコンテクスト化が進み、非同期的な仕事が増える
  • 自宅やサテライトオフィス、デジタルツールの活用機会が増え、オフィス環境の利用は限定的に
  • 1st Place:自宅
  • 2nd Place:勤務先オフィス、またはオンライン会議システムなどデジタルツール
  • 3rd Place:サテライトオフィス、カフェなど
  • 4th Place:未開拓領域。デジタルツールを活用したニューノーマル時代にふさわしい新領域

出典:山下正太郎氏の資料を基に作成

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「コロナ禍はワークプレイスの変革を促す大きなきっかけになりました。パンデミックがある程度収束すれば、従来型のオフィス勤務を求める“ 揺り戻し”の動きも出てくるかもしれません。しかし、若い世代を中心に働き方や働く場所の自由度を求める声は強く、それに応えない会社は支持されない時代です。企業側は、自社のワークプレイスの再定義に本格的に取り組んでいく必要があると思います」

オフィス機能は「BASIC」に集約
課題は短期・長期両視点の両立

では、オフィスに求められる機能はどう変化するのだろうか。今までのオフィスは、偶然の出会いや突発的なコミュニケーションに価値があったと山下氏は話す。そのなかで、新しいアイデアが生まれたりしてきたからだ。

「しかしニューノーマルのオフィスでは、偶然性があまり期待できなくなります。みんなが毎日通う場所ではなくなり、集まる人の数が圧倒的に減るからです。これからのオフィスは、何らかの目的意識を持って集まるような、働き手にとって必然的な場になるでしょう。これは大きな転換です」

今後は場所を規定しない働き方が主流となり、オフィスにはプレミアムな機能だけが残ると山下氏は見る。それが、図2 に示した「B・A・S・I・C」の5要素だ。
ハード・ソフトの両面で自宅よりも働きやすい場を提供して生産性を高める機能「B」、企業カルチャーへの共感などを通じて働き手のエンゲージメントを高める機能「A」、デジタルツールでは伝わりにくい色彩感や素材感などのリアルな体験を共有する機能「S」、ワークショップやチームビルディングのように大勢での知的な対話の場を提供する機能「I」、社外秘情報の共有など緊張感のある対話の場を提供する機能「C」、である。

図2オフィスのプレミアム化によって残る機能「BASIC」

B ooster ⽣産性向上(例:超集中、健康増進)
A uthenticity 精神的報酬(例:カルチャー共有、地域貢献)
S peciality 特殊⽤途(例:プロトタイピング、五感、教育)
I nteraction N対Nのインタラクション(例:ビジュアルシンキング、ワークショップ)
C onfidentiality 機密機能(例:新規事業開発、ボードミーティング、商談)

そして必ずしも⾃前で調達する必要はなく、オフィスのサービス化も進展する
集まるためのコミュニケーションプロトコルの設計が重要になる

出典:山下正太郎氏の資料を基に作成

「これらすべてを自社で準備する必要はありません。シェアオフィスなど、さまざまなサービスが提供されています。それらを組み合わせ、各社がそれぞれに最適なワークプレイスを構築していくことになります。オフィスの外部化が進み、自前のものは縮小していくと推測しています」

一方で、大都市に置かれた本社オフィス自体がなくなることは考えにくいと山下氏は話す。

「東京のような大都市圏は面積が広いので、例えば埼玉・千葉・神奈川に住んでいる社員たちが一堂に集まる場所を考えた場合、その中心に位置する東京都心部が一番便利です。その意味で、都心の優位性は揺るぎません。実際には本社面積の規模縮小という形で進んでいくのではないでしょうか」

課題となるのは、短期的視点と長期的視点の両立だ。短期的には、在宅勤務を推奨しオフィスを縮小することで、通勤時間の負担が減って働き手の満足度が向上し、オフィス維持のコストも削減できるなどの恩恵がある。だが長期的には、企業カルチャーが共有されにくくなり、働き手のエンゲージメントが低下するリスクがある。

「今までの日本では、とにかく朝から晩まで会社にいるのが当たり前で、あえて企業カルチャーを強調しなくても共有できていました。しかし、テレワークを当たり前とする環境では事情が変わり、そうした側面が希薄になります。改めて社員たちに働きかけることが必要になるので、会社の理念やビジョンをしっかり伝える装置としてのオフィス機能が、もう一度クローズアップされていくかもしれません」

働く個人に求められる“ 多様な働き方へのリテラシー”

こうしたワークプレイスの変化に対し、働く個人が留意すべき点とは何だろうか。山下氏は「働き方へのリテラシーが重要になる」と強調する。

「ハイブリッド勤務になると、リアルに人と会うこともあればオンラインで人と面談することもありますし、チャットでコミュニケーションを取ることもあれば自宅でひとり仕事に集中することもあるでしょう。つまり、ワークスタイルの方法が圧倒的に多様化していくわけです。そこで、自分の職務や日々のタスクに対して最大の効果を出すにはどの方法を選択すればベストなのか、リテラシーが問われてきます」

働く場所や時間の自由度が高まることは働き手にとって好ましいことだが、同時にそれは「あなたはどう働きたいのか?」という問いを常に突きつけられることだともいえよう。
「オフィス勤務が前提の時代には、あまり考える必要がなかったので、戸惑ってしまう人は少なくないはずです。働き手が自分に最適な働き方を見つけていくために、企業や社会が何らかのサポートをしていくことも、今後は必要なのではないでしょうか」

Profile

山下正太郎氏
コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 所長/ WORKSIGHT 編集長

コクヨ入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンサルティング業務に従事。手がけた複数の企業が「日経ニューオフィス賞」を受賞。2011年、ワークスタイルとオフィス環境のメディア『WORKSIGHT』を創刊。同年、未来の働き方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立ち上げる。2016 〜2017年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員研究員、2019年より京都工芸繊維大学特任准教授。

山下正太郎氏