組織 人財 アンケート調査 働き方 調査結果からひも解くポストパンデミック時代のワークスタイルによるマネジメントとは

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2022.09.21

新型コロナウイルスのパンデミックが始まって3年弱。その間、テレワークなどの新しい働き方が定着し、マネジメントのあり方も変化してきた。その一方で、オフィスに出社する従来の働き方も依然として続いている。
グローバルカンパニーで20年以上にわたり、人事・人財育成部門の統括責任者として実務にも携ってきた、アデコ株式会社取締役ピープルバリュー本部長の土屋恵子が、テレワークと出社という2つのワークスタイルによる変化やマネジメントの課題、さらに「ポストパンデミック時代」における企業の取り組みの方向性を自主調査の結果から探っていく。

ワークスタイルによってマネジメントはどう変わる?

コロナ禍以降、私たちのワークスタイルは大きく変わったといえる。最大の変化は、在宅勤務を中心とするテレワークを導入する企業が格段に増えたことで、テレワークはワークスタイルの一つとして定着したといえるのではないか。

「しかし、すべての企業がテレワーク中心の働き方を選択しているわけではありません。業務内容や職種によっては、オフィスに出社する従来の働き方が中心となっている会社も少なくありません。また、状況に応じながら2種類の働き方のバランスを柔軟に変えている企業もあります。Adecco Group Japanはこの2022年5月に、テレワーク中心で働くチームの管理職500名、出社中心で働くチームの管理職500名、計1000人の管理職を対象にした『コロナ禍での部下のマネジメントに関する調査』を実施しました。この調査の目的は、ワークスタイルの違いによって、マネジメントにどのような差が生じるのかを明らかにすることでした。見えてきたのは、2つの事実です。」

生産性は高いがマネジメントは難しいテレワーク

調査結果をみると、「生産性」と「部下との関係性」については、テレワークの方が優れているという事実が明らかになった。

「コロナ禍で部下のパフォーマンスが向上した」と考えている管理職は、テレワーク中心のチームで30.0%、出社中心のチームでは17.6%であった(図1)。同じく、「コロナ禍で部下との関係が良好になった」と考えている管理職は、テレワーク中心のチームで25.6%、出社中心のチームでは18.0%にとどまるという結果であった(図2)。

図1Q. 部下のパフォーマンスはどのように変わりましたか

図2Q.部下との関係はどのように変わりましたか

「その一方、『マネジメントはテレワークの方が難しい』ということが、もう一つ浮彫なった課題です。『部下をマネジメントする難易度』においては、テレワーク中心チームの管理職の57.0%が『難易度が上がった』と答えています。これは、出社中心チームの管理職の43.8%を10ポイント以上上回る数字です。同様に『部下のマネジメントにおける自身の負担』『部下のマネジメント方法のコロナ禍における変化』についても、テレワーク中心チームの管理職の方が、『負担が大きい』『変化があった』と考えている人が多いという結果になっています。」

図3Q. 部下のマネジメントの難易度はどのように変わりましたか

「テレワーク中心の働き方は、マネジメント層にとっても新しいチャレンジであり、その中で試行錯誤しながら、よりよい働き方、よりよいマネジメントの方法を多くの人が模索している様子がこの調査結果から伝わってきます。」

部下のモチベーションをいかに管理するか

テレワーク中心チームの管理職、出社中心チームの管理職ともに、コロナ禍の中での部下のマネジメントにおける最も大きな課題が「モチベーションの管理」であることも本調査から明らかになった。周囲に感染者が増えて、自分や自分の家族もいつ感染するかわからないという状況の中で、いかに目の前の仕事に集中するか──。働く人たちの多くはそうした悩みに直面していた。

「そうした中で、部下たちの働くモチベーションを維持しチームの生産性を向上させていくのがマネージャーの役割です。この調査からは、モチベーションを管理する具体的な方法は明らかになっていませんが、少なくとも『課題感』は明確になったといえるでしょう。」

マネージャーに求められるスキルと行動

今後、アフターコロナ、ウィズコロナの時代において、マネージャーにはどのような資質が求められるのか。Adecco Groupが、日本を含む世界25カ国1万4800人の働く人々を対象にして実施したグローバル調査から、その方向性を考察する。

「グローバル調査では、『パンデミック後のマネージャーの役割として重要であると考えられるスキルと行動』のトップ4は、以下のような結果でした。」

図4パンデミック後のマネージャーの役割として重要と考えられるスキルと行動

1位 「部下を信頼して仕事を任せること」
2位 「柔軟性があり、リモートで働くニーズに応える」
3位 「共感力と協力的姿勢」
4位 「部下に安心感を与えること」

「いずれも、部下のモチベーションに直結する要素であることが一見してわかります。部下を信頼し、部下が求めることに応え、部下に共感し、安心感を与えること──。その結果として、一人一人の部下のモチベーションが上がり、チームの生産性が向上する。2つの調査の結果を合わせてみると、そんなことが明らかになると言えそうです。」

ポストパンデミック時代の企業の課題

「グローバル調査では、リーダー層、マネジメント層の多くが『バーンアウト(燃え尽き症候群)』に悩まされていることも明らかになっています。その傾向はX世代(40代から50代)、Z世代(20代)に顕著で、とくにZ世代のリーダーの54%、マネージャーの42%、一般社員の39%が『過去12カ月で過労やバーンアウトを経験した』と答えています。」

図5過去12カ月で、過労やバーンアウトを経験した

「先が見通せないVUCAといわれる時代の中で、不安や働きすぎなどによって心の健康を損なってしまう人が少なくないことがわかります。企業は、リーダー、マネジメント、一般社員のそれぞれの層に対して、適切なメンタルヘルスのケアを施していく必要がありそうです。

コロナ禍が過ぎ去っても、『ビフォーコロナ』の時代に戻ることはもはやないでしょう。企業は、社員を単に労働力として期待するのではなく、互いの多様性や個性を活かしながら未来を一緒に創って行く仲間として、相互に意見を交わし関わっていくことがより重要となっていくのではないでしょうか。」

Profile

土屋 恵子

土屋恵子
アデコ株式会社 取締役 ピープルバリュー本部長

ケース・ウェスタン・リザーブ大学経営大学院組織開発修士課程修了。2015年より現職。ジョンソン・エンド・ジョンソン、GEなど、主にグローバルカンパニーで20年以上にわたり、統括人事・人材育成部門の統括責任者として日本およびアジアの人財育成、組織開発の実務に携わる。一人ひとりの個性や強みが生きる、多様で自律的なチーム・組織創りをテーマに、リーダーシップ開発、企業の社会的使命の共有による全社横断の組織改革、バリューに基づく個人の意識や行動変革の支援、組織診断・制度浸透などを手がける。