2025年、ミレニアル世代とZ世代の人口の合計が生産活動を中心となって支える生産年齢人口の過半数に達する(図1参照)。
アデコ株式会社が2024年6月に有職者を対象に実施した調査では、勤務先を選ぶときに重視することとして、18歳~28歳の社会人では他の世代に比べて「職場での多様性」や「勤務先におけるSDGsやESGの取り組み」を重視する傾向があった。
では、Z世代、α世代の若者の志向や仕事への向き合い方にはどのような特徴があり、どのようなマネジメントが望ましいのか。Z世代、α世代のマーケティングに知見の深い産業能率大学経営学部教授の小々馬敦氏に話を聞いた。
図12024年・2034年の生産年齢の人口構造
2034年には「団塊Jr.とZ世代の親子」と「ミレニアルとα世代の親子」の2つの家族の合計で約6400万人が生産年齢人口となる。
出典:『新消費をつくるα世代』(小々馬敦著・日経BP)
全国1000人の調査で見えた
Z世代の時間感覚と情報の捉え方
SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が世の中で話題を集め始めた2020年、産業能率大学経営学部小々馬敦研究室が行ったのが、「全国の大学生1000人に聞いたSDGs意識調査」だ。
「企業がSDGsの2030年の達成年に向けて経営計画やマーケティング分析に『ビジョン2030』を打ち出しているときに、Z世代の学生から見て『2030年の暮らし方』や『生きがい』『働きがい』をどのように考えているのかを確認するために始めたものです」と小々馬敦氏は話す。
調査は首都圏、関西・九州エリアの学生が対象で、SNSの普及もあり価値観にあまり差異はなかったが、時間感覚に地域差があることがわかった。
「いわゆるタイパ、タイムパフォーマンスの意識が首都圏の学生は違ったのです。目立ったのはマルチタスクという特性。スマホで絶えず新しい情報を検索したり、動画は倍速視聴するなど、同時に3つのことをこなすのは当たり前です」(小々馬氏)
首都圏ではイベントが多く、学生はやりたいことも多いので、時間が足りないという感覚がそうした行動につながっていると小々馬氏は分析する。
Z世代を取り巻く社会的背景としてまず押さえておきたいのが、情報量が劇的に増えているということだ。
「1990年頃から私たちは『情報過多』の時代に暮らしていますが、大きく変わったのは2000年あたりから。1つ目のキーワードは『情報の爆発』で、Z世代はまさしく、情報過多が加速した真っただ中で育ってきたのです」(小々馬氏)
「情報に惑わされたくない」というリスク管理の意識が高いのもZ世代の傾向だと小々馬氏は分析する。いろいろな情報に振り回され、苦い思いをした経験があることが要因だという。世界に流通するデータ量は2010年から2020年の10年間で40倍も増加しており、すべての情報を効率よく処理するには限界がある。
「しかし、“自分向け”と思われる情報は上手く処理して受けとめたいという気持ちがあり、情報への感度や情報の処理法については特別な思いがあるようです。実際に話を聞いてみると、『失敗したくない』『後悔したくない』と答える学生が多く、驚かされます」(小々馬氏)
このためZ世代には、情報を理解するために自分が納得するまで、とことん調べるという特徴があることがわかっている。
「みんなちがって、みんないい」と考えるが、
個性という言葉には圧を感じる
Z世代を理解するうえで2つ目のキーワードは、「多様性」である。実はこの世代は小学生の頃から、学校教育のなかで「多様性は非常に大切」と言われ続けている。
「『みんなちがって、みんないい』という言葉のもと、自分のなかにいろいろな多様性があることは良いことだと教わってきています。私のような上の世代は、こうした言葉を聞くと個性とはその人固有の特質・長所なのだと理解します」(小々馬氏)
しかし、Z世代はこうした多様性という言葉を頭では理解し受け入れながらも、「個性」という言葉に対しての感じ方が異なるという。
「個性という言葉に少し『圧を感じる』のだそうです。『みんなちがって、みんないい』ということは、むしろみんなそれぞれ違わないといけないのか、と捉えてしまうのです」(小々馬氏)
アンケートによれば、自分たちなりにいろんな自分になりたいし、いろんな自分になれる、そんな自由があることが大切だという感覚が調査から見えてきているという。
水平思考で人とつながり、
成長を実感できる企業を選択
Z世代は人と人とのつながり方や、コミュニティの考え方も上の世代とは大きな違いがある。彼らのコミュニティは、家族、親友が3~5人、そして名前は知らないが顔を合わせれば声を掛け合う仲間内のコミュニティ、昔でいう世間があるくらいで、意外にもつながりの範囲が狭まっているという。
人とのつながりや程よい距離感を保ちたいという思いが強く、企業選びにもその傾向が出ていると小々馬氏は語る。学生たちは経営ビジョンやパーパスに共感して企業を選ぶが、実際に企業と面談してみると、例えば成長という言葉の捉え方に隔たりを感じることがあるようだ。企業が考える成長は、山や階段を上に登っていくイメージだが、Z世代の学生の感覚とは異なるという(図2参照)。
図2面接で起こっている“働きがい”の心象のズレ
垂直・山登り型では、Z世代は企業に山頂から成長を促されるような圧を感じる。水平・ネットワーク型なら、周囲とビジョンを共有し成長を実感できる。
出典:HRサミット2020『“Z世代”の働き甲斐と価値観を徹底分析!』(産業能率大学 経営学部 小々馬敦)
「Z世代にとっての成長とは、ネットワークで自分が周りの人と繋がっていくなかで、自分たちができることが増えていくのを実感することです。ですから、垂直・山登り型ではなく、水平・ネットワーク型の企業で『働きがい』を求める傾向があります」(小々馬氏)
何を達成するかに重きを置くのではなく、ビジョンやパーパスに共感し、同じ思いを抱く人と共に働くことを大切にして自分らしさを実感したり、自分が成長するだけでなく、自分が応援している人が成長したりすることに喜びを感じていると小々馬氏は分析する(図3参照)。
「自己満足や自己有用感などのように、自分や周りの人の心を満たしていくような感覚を大切にしていると感じます。きれいごとではなく実際にそう考えていて、そのためZ世代は『ピュア』という言葉で言い表すこともできます」(小々馬氏)
Z世代の強みを生かすには
プロジェクトで成功体験を
内定後に行う「内定者懇談会」は、採用時期の早まりを受け、内定者同士のネットワークづくりを目的に行われるが、実はこれをきっかけにして、予期せぬ事態が起きるという。
「Z世代は同じ思いの人と働きたいと考える傾向が強いため、懇親会で自分と同期入社になる人たちにネガティブな印象を受けると、内定を辞退する学生が出てくるのです」(小々馬氏)
入社して3年間で約3分の1が転職するといわれているが、採用側も、企業は社員のファーストプレイスではなく、セカンドプレイスであるという認識を持ち、選ばれる努力が必要となる。
そこで小々馬氏が推奨するのが、ワークライフバランスを尊重するとともに、初めの3年間で、プロジェクトやタスクフォースで何らかの成功体験を味わってもらうということだ。
「面倒見よく教育することも重要ですが、たとえ小さくても成功体験があれば、人との縁もできます。自分が会社にとって何らかの役に立っているという実感を抱くことができれば、それは会社に所属する強い存在理由となるでしょう」(小々馬氏)
「AIの申し子」
α世代の5つの特性
小々馬研究室でα世代についての調査を始めたのは2019年頃のことで、きっかけはZ世代の学生が自分たちの弟や妹、バイト先の塾などで中学生に接したときに「自分たちとは明らかに違う」と言い出したからだという。
「Z世代はデジタルネイティブでSNSのリテラシーもあるのですが、技術の過渡期であったため、技術を無条件に受け入れるわけではなく、世の中が便利になるといっても、そこまで頼らなくてもいいのではないかという思いがあります」(小々馬氏)
ところが、α世代には明らかな違いがあり、小々馬氏はα世代の特性を以下の5つと捉えている。
α世代の5つの特性
- ①AIとの親和性が高い
- ②リアルとバーチャルの
境目なく生活する
- ③世界を描き出すクリエイター
- ④答えありきで考える
- ⑤社会課題を解決する成果思考
まず①は早くからスマホやタブレットに触れており、スマート家電や学校・塾の学習アプリにはAIが搭載されているため、AIリテラシーが高い。
②は幼少期にコロナ禍を経験し、オンラインゲームが習慣化している。また③は、小々馬ゼミと小学6年生が協働した『ミライ・スケッチ2030』でIoTを駆使した冷蔵庫を再現し、フードロス問題を解決するスケッチを解像度高く再現するなど、クリエイターとしての素質を備えている。
④は調べる手間をかけずにAIを有効活用している。また、Z世代は答えを導くプロセスを重視するのに対して、⑤α世代は社会的に正しいことを「正解」とし、成果志向で答えを導くことを第一とする。
協働作業にあたったあるゼミ生は、「自分たちは問題意識は高いが、どのように解決するかは試行錯誤している。その点α世代はAIのリテラシーに長け、解決力が備わっているので、成果を出せる強みがある」と評価する。
Z世代がファシリテートしα世代と
プロジェクトベースで仕事をする時代へ
すでに一部で突出したAIリテラシーを有する優秀な小中学生もいる。将来的に彼らのようなα世代が中心の社会になると、プロジェクト遂行能力が高いα世代がZ世代の立場を脅かすという意見もあるようだ。問題意識や貢献意欲が高いZ世代がα世代の強みを生かすためにも、今後、企業はZ世代のリーダーシップを育成していくことが求められるという。
「ヒエラルキーは2030年代に近づくにつれ、姿を消し、性別や年齢も関係なく、経験はもとより、技術やスキルの好み、得意不得意が尊重されて、日本でもプロジェクトベースで仕事が進む時代になるはずです。そのときにZ世代がα世代に『自分たちでやった方が早い』などと言われることのないように、ビジョンやパーパスを描けるリーダーシップが身につけられるか、親和性をもってファシリテートできるかが、カギを握ることでしょう」(小々馬氏)
将来、α世代の後には6Gを駆使するβ世代も控える。Z世代が牽引すれば、2030年代はZ世代・α世代(β世代)の共創社会となるだろう。
Profile
小々馬敦氏
産業能率大学経営学部マーケティング学科 教授
産業能率大学大学院総合マネジメント研究科 教授
株式会社ブランドエンジニアリング 代表取締役
日経広告研究所 客員
多様な業界における無形資産価値経営、事業ポートフォリオ戦略、マーケティング、広報戦略を支援。大学研究室の産学連携研究では、X・Y・Z・α世代の価値観と購買行動の調査を通して次世代マーケティングの進化を洞察し報告する「ミライ・マーケティング研究会」を(公社)日本マーケティング協会と共催している。最新刊に『新消費をつくるα世代 答えありきで考える「メタ認知力」』(日経BP)がある。