働き方 仕事の未来 インタビュー・対談 テクノロジー 「2025年の必須スキル、AIと経営者はどう向き合って行くべきか」をテーマに、AI研究者 今井 翔太氏とトークセッションを実施

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2024.10.10
「2025年の必須スキル、AIと経営者はどう向き合って行くべきか」をテーマに、AI研究者 今井 翔太氏とトークセッションを実施

Adecco Groupは、世界9カ国の経営幹部レベル 2,000人に対し、経営層の AI導入・活用に対する意識調査を実施し、「AIによるディスラプション(※)を乗り切るには(Leading Through the Great Disruption)」 と題する調査レポートを発表しました。レポートでは、経営者がAIを理解すべき理由やAI時代の人財マネジメント、リスキリングの必要性について述べられています。

2024年8月22日、東京大学松尾研究所出身のAI研究者 今井 翔太(いまい しょうた)氏をゲストにお迎えし、「2025年の必須スキル、AIと経営者はどう向き合って行くべきか」をテーマに、トークセッションが行いました。経営者がAIを学ぶための最適解や、企業実装を加速させるための取り組み方法、リスキリングの重要性について、今井氏とアデコ株式会社 代表取締役社長 平野健二とのトークが交わされました。

(※)ディスラプション:大きな変革をもたらす創造的破壊

まずは生成AIの体系的な知識を身につけること

はじめに、多方面にわたり生成AIの研究で知られ、ベストセラー「生成AIで世界はこう変わる」の著者でもある今井氏が、研究者の視点からAIを学ぶ方法について話しました。

AI研究者 今井翔太氏

今井

「経営層の方は、はじめに生成AIの体系的な知識を身につけることが重要です。まずは一般書店に並ぶ書籍で学んだ上で、技術メディアの情報を掴むとよいでしょう。

よくある誤解が、生成AIを万能と考えることです。例えばChatGPTは、何か大きなデータベースから正しい単語を抜き出しているわけではありません。大規模言語モデルの名の通り、大量のデータの蓄積から頻出の確率が高い単語を抜き出しています。

そのため、そもそもの構造上、ハルシネーションと呼ばれる『嘘』の発生を防げません。また、学習時のデータの取得時間によって、リアルタイムの事象に対応できないなどの制約があります。こうしたことを理解せずにAIを業務に適用して失敗するケースが散見されます。社外向けの文書であれば致命的な影響が発生しかねませんし、著作権の侵害リスクもあります」

ディスラプション時代においては、ジョブ型の人事戦略からスキルベースの人財マネジメントへ。労働移動に伴いトランスファラブルスキルが重要に

続いて平野が、AIをリスキリングする上での重要なポイントと、AIによるディスラプションに対する人財マネジメントについて話しました。

アデコ株式会社 代表取締役社長 平野健二

平野

「リスキリングの重要なポイントは2つです。1つ目はAIを脅威ではなく、ビジネスチャンスとしてとらえ、その上で事業戦略や投資戦略を立てること、2つ目はリーダー自ら『AIとは何か』を学んでいくことです。

また、AIによるディスラプションに対応するためには、ジョブ型の人事戦略からスキルベースの人財マネジメントに変更することが必要です。加えてリスキリングと労働移動に取り組むことも欠かせません。AIの進化が加速し、多くの仕事が喪失する一方で新たな仕事が誕生しています。別の職種に移行しても使えるトランスファブルスキル(汎用的で別の業種や職種での応用が可能なスキル)を身につけることが大切です」

リスキリングという言葉は、これからの人間にとって「新たな適応」を意味する

平野のコメントに対し、今井氏がAI研究者の視点から補足しました。

今井

「どの時代も”変化”に対する適応が求められてきました。けれども、生成AIに伴う”変化”は極めてシリアスであり、現在とてつもないことが起きています。『リスキリング』という言葉は、これからの人間にとって新たな適応を意味します。

例えば、ここ数週間のあいだにAIサイエンティストが誕生し、人間の研究者がやっていたことの8割をAIが行えるようになりました。また、金融アナリストの収益予測も、AIの方が正確でした。人間は新たな変化に適応するため、リスキリングが必要になっているのです」


最後に平野がコメントしました。

平野

「AIが非常に大きな役割を果たしていく中、AIを活用する枠組みをしっかりと整備する必要があると思います。当社ではその枠組作りと人財マネジメントから貢献していきたいと考えています」

Profile

今井翔太氏

今井翔太氏
AI研究者

1994年、石川県金沢市生まれ。東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 松尾研究室におけるAIの研究で博士(工学)を取得。人工知能分野における強化学習の研究、特にマルチエージェント強化学習の研究に従事。ChatGPT登場以降は、大規模言語モデル等の生成AIにおける強化学習の活用に興味。生成AIのベストセラー書籍『生成AIで世界はこう変わる』(SBクリエイティブ)著者。その他書籍に『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』(翔泳社)、『AI白書 2022』(角川アスキー総合研究所)、訳書にR.Sutton著『強化学習(第2版)』(森北出版)など。

平野健二

平野健二
アデコ株式会社 代表取締役社長

1978年、栃木県生まれ。2004年、アデコ株式会社入社。営業職として大型案件の獲得やトップセールスの記録といった実績を残し、早い段階からマネジメント業務に従事。支社長、エリア長、事業本部長を経て、2018年に同社執行役員ジェネラル・スタッフィング COOに就任。2022年10月、同社取締役 兼 Adecco Chief Operating Officerに就任。人財派遣事業およびアウトソーシング事業のブランドであるAdeccoの日本における責任者として、様々な新規事業の立ち上げ、事務派遣就労者のリスキリングの推進、アウトソーシング事業の拡大等を指揮する。2024年4月に同社代表取締役社長就任。2021年、ロンドンビジネススクール 修士課程(MSc)修了。