ダイバーシティという言葉はこの数年で広く知られるようになりましたが、その解釈はさまざまです。
ダイバーシティの本質とは何か、企業がダイバーシティに取り組む意味とは何か。
早稲田大学大学院教授の谷口真美氏と、東レ経営研究所の渥美由喜氏に伺いました。
私はこれまで800社ほどの企業を訪問し、ダイバーシティに関する取り組みをヒアリングしてきました。その経験から、ダイバーシティとは「働きがいのある職場作り」と端的に定義できること、また、ダイバーシティはワークライフバランスと切り離して考えることはできないことなどを学びました。
たとえば、女性社員を増やしたとしても、その人たちにこれまでの男性社員と同じ労働スタイルを強要するとすれば、ダイバーシティが実現しているとは言えません。あるいは、管理職への女性登用を推進しても、キャリアと育児のどちらを取るかといった選択を迫られる環境であれば、それもダイバーシティとは呼べないでしょう。
さまざまなライフスタイル、志向を持った人たちが、それぞれの条件に応じたワークスタイルで働くことができ、自身の働きがいを得られること。また、仕事以外のプライベートな時間に充実した活動ができること。そのような環境ができて初めてダイバーシティが実現したと言える。それが私の考えです。
ダイバーシティの経営効果について、私は以前、企業に調査を実施したことがあります。その結果、主な効果として、4つ挙げられることが分かりました。「優秀な人材を確保できること」「就労意欲の向上」「業務の効率化」「多様な視点をビジネスに活用できること」です(図1参照)。これに加えて、企業内に幅広い人材がいたほうが環境変化に対応しやすく、また、多様な視点がコンプライアンス(法令遵守)にもつながるでしょう。
ダイバーシティには、「多様性」と「多面性」の二つの側面があります。多様性とは属性の分類であり、「性別」「国籍」「障がいの有無」「就業形態」「年齢」の5 つの項目に分けられると私は考えています。一方、内面的な個性や価値観の違いが「多面性」です。
企業ではその両方の実現が目指さその両方の実現が目指されるべきですが、多くの企業にとっては、まずは従業員全員がいきいきと働くことができる環境・制度を整備していくことが当面の課題となるでしょう。
女性、あるいは障がい者といった人たちが働きやすい環境は、すべての人にとって働きやすい環境であると言えます。働き方の選択肢がそれだけ増えるわけですから。私自身、介護と看護を日々こなしながら、日によって勤務時間が異なるという働き方をしています。今後、日本社会が急速に高齢化していくことを考えれば、私のような労働スタイルを選択する男性社員も増加していくはずです。多様な働き方が認められ、しかも、仕事へのモチベーションは損なわれない。それが、ダイバーシティが実現した職場なのです。日本の経済力低下の原因の一つは、ダイバーシティが進んでいないことではないでしょうか。多くの企業で、一人ひとりが生き生きと働ける環境が整えば、日本経済はまだまだ活力を維持できるはずだと、私は考えています。
profile
1992年、東京大学法学部を卒業し、富士総合研究所に入社する。その後、富士通総研を経て、2009年に東レ経営研究所に入社。雇用、企業経営、人口問題、社会保障などを専門とする。