「深層のダイバーシティ」を活かすことがビジネスの成果に結びつく

なぜ企業はダイバーシティを実現しなければならないのか

ダイバーシティという言葉はこの数年で広く知られるようになりましたが、その解釈はさまざまです。
ダイバーシティの本質とは何か、企業がダイバーシティに取り組む意味とは何か。
早稲田大学大学院教授の谷口真美氏と、東レ経営研究所の渥美由喜氏に伺いました。

Interview 谷口真美氏(早稲田大学大学院教授)
「深層のダイバーシティ」を活かすことがビジネスの成果に結びつく

ダイバーシティには、二つのタイプがあると考えています。一つが「表層のダイバーシティ」、もう一つが「深層のダイバーシティ」です。表層のダイバーシティを進めることとは、女性、外国人、障がい者といったマイノリティとされる人たちを雇用し、福利厚生等の周辺的制度を整備する取り組みです。しかしこの取り組み自体は「多様化のための多様化」、つまりメンバーの多様化そのものが目的となることが多く、むしろCSR(企業の社会的責任)の範疇に入るでしょう。
それに対し、職歴、スキル、パーソナリティ、考え方、仕事観、文化的背景など、外観から認識できないような個性やアイデンティティの違い(深層の多様性)を企業経営に結びつけようとする取り組みが、本来的な意味での「ダイバーシティ・マネジメント」です。これが、企業が目指すべきダイバーシティです。

深層のダイバーシティを活かすことで実現する効果としては、企業がビジネス環境の変化に迅速に対応できるようになること、多様なアイデアを問題解決の源泉にしうること、さらに、異なる人々が集まることで、社内に相互に触発し合える環境が生まれ、働くモチベーションにつながることなどが挙げられます。

もちろん、単に多様な人材を集めるだけで、効果が生まれるわけではありません。急に多様化が進むことで、むしろマイナス面が現れることもあります。コミュニケーションがうまく取れない、業務とは関連のない価値観の対立が起こる。多くの企業がこうした問題に悩まされています。必要なのは、その人の「個性」を組織における「役割」に結びつけ、どのような価値を生み出してほしいかを明確にし、多様性を新たな自社のビジネスモデルに括りつけることです。

私は、企業におけるダイバーシティの取り組みの姿勢を「抵抗」「同化」「多様性尊重」「分離」「統合」の5 つの段階で区分することを提唱しています。「抵抗」とは、多様性の存在を回避し、何のアクションも起こさない姿勢です。「同化」は、たとえば「男女雇用機会均等法ができたので、女性を採用する」といった外形的には多様化を受け容れながらも、現行システムは変えない、事実上、多様化とは正反対の姿勢です。
そして、違いの存在を認めるものの、ビジネスにとってどのような価値があるのか明確にしていないのが「多様性尊重」。ダイバーシティに取り組む日本企業の多くが、この段階にとどまっています。

米国では1980年半ばに、次の「分離」や「統合」の考えが出てきました。「分離」とはマイノリティとマジョリティを分離し、純粋培養的に活用する。たとえば、マイノリティ市場の製品開発には、マイノリティの人材を活用するといった考えです。

「統合」は既存の仕組みを変革し、マイノリティを組織全体で活かし、環境の変化に強い組織にすること。得られる成果がより大きいのが「統合」です。世界売上高上位500社に対する私の調査では、「統合」組織の方が先の世界金融危機からの回復が早かったという結果になりました。

 グローバル化が進む中で、企業が持続的競争優位を築くためには、多様な人材を雇用するだけではなく、適所への迅速な配置や、管理職の多様性活用スキルの向上に取り組む必要があるのです。

谷口真美(たにぐち・まみ)

profile
1996年、神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。広島経済大学助教授、広島大学大学院助教授、早稲田大学大学院商学研究科助教授などを経て現職。著書に『ダイバシティ・マネジメント』(白桃書房)などがある。

VOL.28特集:経営戦略としてのダイバーシティ・マネジメント

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ダイバーシティ・マネジメント実践事例