欧米企業にみる人事評価制度の現状【後半】

企業の人事評価制度について考える

90年代以降、導入が相次いだ成果主義。しかし日本の企業においては、成果主義の評価制度が機能しないケースが少なくない。
成果主義はなぜうまくいかないのか。成果主義にはどのような特徴があるのか。
さらに今後、企業の人事評価制度が向かうべき方向は──。
東京大学教授の大湾秀雄氏と、タワーズワトソンの片桐一郎氏に、これら一連の話をうかがった。

2.欧米企業にみる評価制度の現状 (2/2)

ホワイトカラーとブルーカラーの差

大湾氏は、米国企業における評価制度の二つの基準を、ホワイトカラーとブルーカラーの差として説明する。
「米国の企業では、ホワイトカラーのリーダー層とブルーカラーに期待される働き方が明確に異なります。リーダー層は、幅広い知識や視点を身につけて、経営に貢献することを求められるのに対し、ブルーカラーは特定分野の仕事を過不足なくこなすことが求められます」
日本企業は社員をジェネラリストへと育成したがるのに対し、米国の企業は社員に専門性を求めるとよく言われるが、これは実は一面的な見方で、米国の企業においても、ホワイトカラーでマネジャークラス以上のポジションまで行く人は、ほぼ例外なくジェネラリストであるという。大学在学中に多様な分野を専攻し、入社後もさまざまな部署を渡り歩き、結果、広い視野と技能を身に付けた人が出世するわけだ。日本企業と決定的に異なるのは、ジェネラルなスキルが求められるのはリーダー層のみで、しかもリーダーになることを期待される人は、かなり早い段階で選別されるという点である。

この仕組みのように特定の人は昇進、昇級を目指すことができるが、多くの社員はある段階以上の出世を望むことはできない。それが米国の一般的な企業のあり方であるが、それが実現できたのも、以下に述べるような背景があったからだろう。

米国における職務給の考え方

実はリーダー層以外の従業員に適用される職務給の考え方も、米国と日本では異なっている。米国では職種ごとに明確な賃金の基準があり、働き手が少ない職種では賃金が上がり、逆に働き手が多い職種の賃金は下がるという市場原理が働いていると片桐氏は言う。このような仕組みが米国ででき上がったのも、実は戦時中だ。大湾氏は解説する。
「戦争によって働き手が不足するという現象は、日本もアメリカも同じでした。しかし、それに対応する政策は日本と180度異なるものでした。日本が企業間の人の移動を制限したのに対し、アメリカでは人手に余裕のある産業から、人手の足りない産業に働き手を移動させる政策がとられました。このときに行われたのが『職の標準化』です。社会に存在するほぼすべての職業を網羅してそれぞれの職を緻密に分析し、職務の定義を行ったのです。それ以降、これが客観的指標の一つとなり、誰もがそれを見て職業を選ぶことができるようになりました。結果として働く人の流動化が促進されることとなり、また職務ごとの賃金水準の基準もそこで定まることになったのです」

「業績」と「能力」二つの軸での評価

以上、見てきたように、欧米、とりわけ日本と米国の企業風土は大きく異なるが、アメリカにおいても、成果によって一律に社員を評価する仕組みが実現しているわけではないことがわかっていただけたと思う。「成果」という指標の導入が日本企業でも不可避となっているとはいえ、それをどのような職階にどのように適用するかは、結局のところ、それぞれの企業の判断ということにならざるを得ないだろう。

この項の最後に、成果主義導入の一例として、GEのケースを見ておきたい。数々の独自の人事制度によって知られるGEだが、特にこの「9Blocks」(図3)はよく知られた評価指標である。

この「9Blocks」の基本的な考え方は、「業績(パフォーマンス)」と「能力(ポテンシャル)」を縦軸・横軸とし、社員を9つの象限のどこかに位置づけるというもの。先に大湾氏が指摘しているようなアウトプットの偶然性(景気の動向など外的要因)を、その人が本来もっていると思われる能力によって補正して評価を下す優れた仕組みである。

【図3】 GEの9Blocks