日本企業のグローバル化が進む中、従業員の国際間競争も浸透しつつある。ところが現在の日本人は、肝心の“やる気”が低いといわれる。その理由とは?また、社員のモチベーションを上げる方法とは?識者の声を聞きながら、モチベーションの本質を探っていく。
前ページで示した通り、従業員のモチベーションを高めるため現場のリーダーの「やるべきこと」が増えている。部下の一人ひとりを承認し、部下のモチベーションと組織の方向性を合わせ、組織の業績拡大を実現していくなど、さまざまな役割がある。
しかし、このすべてを現場の管理職だけに押し付けるのは非現実的だ。そこで要求されるのが「現場管理職のビジネス・パートナー(BP)、ディスカッション・パートナーとしての人事の存在」(岡田氏)だ。
「今、各現場の従業員にとって何がエンゲージメントのキーファクターなのか、逆にこれを低下させている要因は何なのか、全社的な調査を通じて探り、正確な現状把握を実施、それを人事戦略に落とし込む役割です。たとえば何となく惰性で働いている『やる気』の低い“ぶら下がり社員”が多いようなら、その背景が現状認識の甘さなのか、何らかの施策の不具合なのか、社員の能力の問題なのかを明らかにしたうえで対応を考える。逆にエンゲージメントは高いのに転職意欲も高い社員が多いなら、その背景を知るとともに積極的にキャリアアップや昇進などの機会を与えるチャンスを作る。現状が正確に把握できていれば、人事がやるべきことは、自ずと見えてくるものです」(岡田氏)
ところが実際には、人事部が「従業員のお世話係・苦情係」となっているケースも少なくない。しかし「社員のお世話」なら外部のサービス、たとえば従業員の意見を受け付けるコールセンターを設けるなど、アウトソースすることは十分に可能だ。だからこそ今後は「現場と経営のBP」としての付加価値が人事に要求される。
もっとも、いくら人事が従業員のモチベーションアップに必死になっても、経営陣の意識が低ければ、結果は出ない。「経営陣が徹底してコミットしないと、現状把握のための調査、その調査結果を受けての制度・評価作り、組織風土作りも継続して行うことができず、結果として従業員のエンゲージメントを持続的に高めることはできないのです」(岡田氏)
さらに言うと、経営が「社員のモチベーションを上げるためならリスクさえ取る」という姿勢だと、効果はてきめんだ。「ある企業の例ですが、営業が社内向けの資料作りに追われ肝心の営業業務に時間を割けなくなるという事態に陥りました。その時、『今後1カ月、一切の社内資料は不要』と経営が判断。結果、営業は本来の業務に注力できるようになったと同時に、業務効率化の動きも活発になり、エンゲージメントが改善したのです」(岡田氏)
また守島氏は、「経営は、常にビジョンや指針を浸透させ、従業員自身がいかに社会や人の役に立っているか、また役立つべきかを示すこと。いかに一人ひとりの仕事に『貢献感』をビルトインするかも人事の重要な任務」と説く。そして経営サイドに、これら「やるべきこと」を伝えることも、「BP」としての人事の重要な役目でもある。かように人事は、従業員のモチベーションの鍵を握っているのである。