社員のモチベーションを高めるためには、現場のリーダーが部下一人ひとりのモチベーションの源泉を見極め、それを刺激し、働きがいを見いだしてもらうこと。一方、人事は管理職のBP(ビジネスパートナー)として、現場のニーズを探ること。そして経営は、「モチベーションの重要性」を認識して、その推進に徹底してコミットすること。そして、この3つが揃うことが条件だと、繰り返し述べてきた。ヤマト運輸が2008年11月より始めた「満足ポイント制度」は、この“幸せな三位一体”が生んだ典型例といっていいだろう。
仕組みは至ってシンプルだ。イントラネット上で、同僚を褒めるコメントを投稿すると、褒めた相手に10ポイントが、褒めた側にも3ポイントが付与される。そして、このポイントが200ポイント貯まれば銅バッジ、500で銀バッジ、1000で金バッジ、2000で最高位のダイヤモンドバッジが与えられる。人事総務部人事企画課長の渡邊一樹氏は、同制度の導入のきっかけをこのように語る。
「当社は元来『ヤマトは我なり』、つまり、社員一人ひとりがヤマトを代表しているのだという社訓があるくらい、社員の自主性を尊ぶ文化がありました。しかし長い歴史の中でそれが普遍化してしまい、さらに新入社員にいち早く仕事を覚えてもらうために、叱って育てる指導に偏っていた時期がありました。結果、社員は萎縮してしまい主体性に乏しくなってしまいました。こういった状況を変化させ、自主性を強化するために、この制度を始めたのです」
ヤマト運輸の屋台骨を支える6万人超のセールスドライバーは、ひとたび配達に出れば、孤独な仕事だ。しかし「多忙な同僚を助けた」「営業に貢献する働きかけを行った」など自発的な活動が周りから認められ、目に見えるポイントという数字で評価されれば、自身のやる気を鼓舞する、大きな原動力になる。
「周囲からの評価をバッジで“見える化” したことも、同僚からの尊敬を集めるのに一役買っています」(渡邊氏)
この仕組みは、社内ネットワーク(イントラネット)で、自分の何がどう褒められたのか記録として履歴が残る。このため、自身の仕事ぶりを認識する材料にもなる。また同僚が褒められた内容を見ることもできるので、いい意味でのライバル心も掻き立てられる。しかし、こういった「社内で褒め合う風土作り」というのは気恥ずかしいものでもあり、たとえ制度化しても、運用に失敗し、定着しない場合が多い。
ヤマト運輸がこの仕組みを成功させている背景には、先代経営者、故・小倉昌男氏の時代から連綿と続く「ヤマトは我なり」「サービスが先、利益が後」が、約14万人を超える組織全体にしっかりと浸透していること。また、学歴や職歴に関係なく本人のやる気があれば、昇進のチャンスが与えられるという、人事制度の存在がある。
「当社で働く正社員は職種に関係なく、立候補すれば、管理者に任命されるチャンスが与えられます」
出世に「ガラスの天井」はなく、どんな職種からも、頂点の社長を目指すことができる。実際に現在ヤマト運輸には、セールスドライバー出身の執行役員が存在し「本人のやる気次第でチャンスは無限大である」ことを証明している。
このように経営のコミット、社員のモチベーションを刺激する人事、そして現場での承認を同時進行で実現していることが、「褒める文化」が個人・組織のモチベーションに大きく関連している土壌を作っている。