人財こそが企業の競争力の源泉──。ここ数年、世界のビジネスや教育機関の現場で広まっている共通認識だ。
国家行政単位で取り組まなければならないこのテーマと、日本の現状の採用育成について探ってみた。
「ここ数年は、どの企業も国際的に活躍できる人財が不足しており、育成も追い付かないことから、国内でマネジメント経験のない若手をマネジャーとして海外赴任させるケースが増えています。しかし、日本人をマネジメントしたこともない人が、文化も価値観も異なる外国人を部下に持っても成果を上げることはなかなか難しい。現地でうまくマネジメントできなかったり、本人が疲弊してしまうケースも珍しくありません」(杉原氏)
外国人従業員の採用についてもさまざまな課題が露呈している。調査によると、外国人の本社採用実績のある企業は57.2%と半数を超えたが、全採用数に占める外国人採用数の割合は「1%以上2%未満」が5割近くを占めている(図5)。外国人役員がいる企業も全体の8.5%に過ぎない。その根底には、本社採用の外国人社員の離職率の高さがある。
「日本企業は、外国人社員の本社登用はもとより、現地法人でも現地スタッフに権限を委譲しない傾向があります。その理由の一つは、日本企業は同質性が高く、“ハイ・コンテキスト”なコミュニケーション、つまり日本人同士が文脈を共有し意図を汲んで動く仕組みに依存しているからです。日本人と文脈を共有しない外国人を据えると、うまく意思疎通ができず、混乱を招く可能性があるため、日本人で固めたほうが安心と考えてしまう。しかし、それでは各国の優秀な人財が日本企業に魅力を感じてくれるわけがありません」(杉原氏)
では、日本の人財の採用・育成・活用は、これからどうすべきか? 杉原氏は、まず「わが社の求める人財像」を明確にすることが大切だと強調する。「企業の状況によって、求められる人財像は異なります。現地法人を立ち上げたばかりなのか、現地法人に権限を委譲していくべき時期なのか、グローバルな経営リーダーをトップに据えるべきなのか、その段階によって必要となる人財は異なります。最初にすべきことは、『自社にどのような人財が必要か』を明らかにすることです」
その定義を決める上では、もちろん経営の方向性が土台となる。
「“グローバル”というテーマに限らず、人財の育成は経営課題そのものです。人事担当者は自社の経営の方向性を読み解いた上で、人財マネジメント戦略を練り上げ、経営陣と共有することが重要になります」(杉原氏)