VOL.41 特集:現代の働き方「テレワーク」そのメリットと課題とは?

Column モバイルワークで社員の創造性を最大限に発揮する

モバイル型

時代に先駆けて、社内のモバイルワーク導入にチャレンジした、シグマクシス代表取締役会長兼社長の倉重英樹氏。組織と社員のパフォーマンスを最大限に引き出す方法論を聞いた。

倉重英樹氏は、1990年代前半のプライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(PwC)の会長時代、PHS、PCの個人貸与やフリーアドレス制などのモバイルワーク(モバイル型テレワーク)を導入した。社員のパフォーマンスを最大限に引き出すことが目的だった、と倉重氏は話す。

「働く場を問わないモバイルワーク環境は、オフィススペース縮小によるコスト削減をはじめ、社員が時間の使い方を工夫することによる“ライフワークバランス”の実現など、多くの効果をもたらしました」

仕事のパフォーマンスを最大化する場を自分で選ぶ、という考え方に賛同する優秀な人財が集まり、社員数は大幅に増加。売上は20倍になった。現在、倉重氏が社長を務めるシグマクシスでは、ウェブ会議システムやタブレット端末も活用し、モバイルワーク環境はさらに進化している。

こうした環境が社員のパフォーマンスを向上させるのはなぜなのか。

「コンサルタントが創造的な仕事をするには新しい発想が必要。その刺激を与えるのが、異なる世界との出会いです。フリーアドレス環境では、たまたま隣に座ったことをきっかけに新たなコラボレーションが生まれる。さまざまな視点や能力、価値観による化学反応があってこそ、イノベーションが起こるのです」と倉重氏は効果を語る。

一方で、社内の情報が一元化されるというメリットもある。PwCのオフィス改革でも、紙媒体だった情報がすべてデジタル化され、全社員が同じ情報を共有できる環境が整った。たとえば過去のプロジェクト情報は、社内のセキュリティルールに基づいて公開され、社員はこうした情報に自らアクセスすることで、ノウハウを得る。この変革は、「誰かに教えてもらう」のではなく「自ら学ぶ」姿勢へと、社員の能力開発への取り組み方にも変化をもたらした。

とはいえ、モバイル化で社員の能力を引き出すにはいくつかの前提がある、と倉重氏は話す。「まず、アイデアを考え出し課題を解決することで価値を生む、創造型のビジネスであること。また、モバイル化により組織の管理から離れた社員を、正しく評価する仕組みが整えられていることです」

フリーアドレスとなっている社内。隣に部長が座っていることも。

シグマクシスでは、働く環境に左右されない能力評価を実現するべく、職種別に必要な能力を定義し、社員一人ひとりが現在どのレベルにあるかを評価する。評価結果が社内に公開されることで、能力を最大限に発揮できる仕事に配置されるとともに、次に開発すべき能力が明確化されている。

「これからは、イノベーションにより競争優位性を築き上げる時代です。フレームワークに頼らず、試行錯誤の繰り返しで解を導き出せる人財の育成が急務になります。創造性豊かな仕事の環境は、その取り組みの第一歩といえるでしょう」

社内のコラボレーションスペース。奥には心がなごむ自然の風景動画が常時流れている。

株式会社シグマクシス 代表取締役会長 兼 社長
倉重英樹氏

profile
日本IBM副社長を経て、1993年プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(PwC)会長に就任。2002年IBMとのグローバル統合によりIBMのコンサルティングビジネスの立ち上げをリード。その後、日本テレコム取締役代表執行役社長を経て現職。