また、従業員が50人未満の会社は義務化の対象外となったが、費用の問題も懸念されている。
細谷氏は「企業が弱者側に立つのはまっとうなこと」と評価しつつ、「どこからどこまで運用するのか、適切に見極める必要があるでしょう」と指摘する。今後発表される厚生労働省からの指針に注目したい。
労働者派遣法改正案やホワイトカラー・エグゼンプションなど、2014年から引き続き議論がされるテーマに加え、働き方もより多様化が進みそうだ。
キーワードを挙げながら、2015年の雇用と労働を読み解いた。
労働基準法では、週40時間1日8時間の労働時間が原則として定められている。それを超えた場合、企業は残業代を支払わなければならない。この規定を一部の労働者について除外する制度「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)」の議論が続いている。
この制度は、近年深刻な問題となっている過労死やメンタルヘルスに悪影響を及ぼす長時間労働の規制を目的とするもの。仕事を「労働時間」ではなく「成果」で評価することで仕事の効率化を図り、育児や介護を抱える労働者にも働きやすい労働環境の実現を目指す、とされている。
しかし、前出の濱口氏はこういった狙いについて、「本質からズレている」と指摘する。
「残業代ゼロで長時間労働を強いる法案という批判もありますが、それは一面で間違っていません。長時間労働を規制するのなら、給料ではなく残業そのものを規制すべき。そもそも残業することが前提になっていることが問題。例えば月100時間以上の残業で倒れたら労災認定されますが、倒れなければ違法ではありません。そんな“労働者の使い倒し”を抑制する唯一の手段が残業代です。その仕組み自体を変えなければいけないので、長時間労働の上限を規制することと残業代の緩和を切り離さず議論する必要があります」
また、細谷氏は「仕事によって残業の捉え方が異なるので、根本的な解決にはならない」と言う。
「クリエイティブな仕事をする人は残業の概念がない人が多く、一方で工場労働者は定時と残業をきっちり分ける。システムエンジニアなど裁量労働制の仕事もある。それぞれ個人で選べるようにすることが理想だと思います」
WEは今年の通常国会で法案が提出される見通しだ。女性の活躍やダイバーシティ推進にもかかわる長時間労働の規制は、15年も模索が続くだろう。
2000年以降、精神障害の労災認定件数が増加の一途をたどり、13年は00年と比較すると100倍以上となっている。そんな社会状況を受け、労働者への「ストレスチェック」を企業に義務付ける改正労働安全衛生法が可決し、今年12月1日から施行されることとなった。
企業が実施する際の流れは、
①事業者は医師(産業医・保健師等)が労働者にストレスチェックを実施し、結果を本人に通知する制度を設ける。
②その結果をもとに、労働者は事業者を通じて医師の面接指導を希望することができる。事業者は、この申し出を理由として労働者に不利益な取扱いをしてはならない。
③面接後、事業者は医師の意見を聴取・勘案し、必要に応じて作業転換や労働時間の短縮などの措置を実施する。その際、医師は①の結果を労働者の同意を得ないで事業者に提供してはならない。
この目的は「メンタルヘルス不調の予防」とされているが、濱口氏は「非常にセンシティブな問題」だと話す。
「会社が主体的に実施しなければならないのに、情報はダイレクトに知らされないという仕組みは、責任という点で企業側に複雑なジレンマを生むことになります」
また、従業員が50人未満の会社は義務化の対象外となったが、費用の問題も懸念されている。
細谷氏は「企業が弱者側に立つのはまっとうなこと」と評価しつつ、「どこからどこまで運用するのか、適切に見極める必要があるでしょう」と指摘する。今後発表される厚生労働省からの指針に注目したい。