企業の変革期に求められる最先端のマネジメント
国内市場の成熟化とグローバル化に伴う企業間競争の激化や、ビジネスサイクルの短縮による迅速な意思決定。さらには、「働き方改革」の名の下で求められる長時間労働の是正から、深刻化する人手不足に対応するための生産性の向上などと、経営環境が激変するなか、日本企業はさまざまな変革を求められています。
これらの変革を進めていく上で最も重要なカギになると考えられるのが、「マネジメント」=管理職です。
経営層だけでなく、管理職層までを含めたマネジメントのあり方をどこまで変革できるかが、企業の持続的成長を左右するといえます。
3人の識者への取材をもとに、マネジメントの最新事情と管理職が目指すべきリーダー像を探る全2回にわたる特集の前編では、「マネジメント」にとっての「ビジョン」の重要性を解説します。
「不確実性が高まる時代において、リーダーシップのあり方が企業の業績を左右していることが、最先端の経営学の研究でも明らかになっています」
こう語るのは、国内外の経営学の最新研究に詳しい早稲田大学大学院経営管理研究科准教授の入山章栄氏だ。
「現代の経営学における主流なリーダーシップの考え方に、トランザクティブ・リーダーシップとトランスフォーメーショナル・リーダーシップという二つがあります(図1参照)」(入山氏)
ともに重要な要素だが、不確実性の高い中で有効とされるのは後者だという。 「今は経営環境の変化が激しく、トップダウン型の意思決定ですべてに対応しようとしても追いつかない。指針となるビジョンを掲げ、あとは部下が能力を発揮できる環境づくりに集中したほうが成果を期待できます」(入山氏)
シンクタンク、ソフィアバンク代表で人事・マネジメントにも詳しい藤沢久美氏も、入山氏同様、経営における「ビジョン」の重要性がますます高まっていると指摘する。
「ここ5 年ほどで日本企業の経営者は明らかに変化しています。増えているのは、未来をイメージさせる魅力的なビジョンを掲げながら、ビジネス自体は部下に任せ、彼らの可能性を引き出すタイプ。成果を上げている企業の経営者ほどその傾向が強いです」(藤沢氏)
ただし、経営層の変化が進みつつあるのに対して、管理職層の対応は遅れていると藤沢氏は付け加える。
「経営トップが打ち出したビジョンを、現場に近い言葉に置き換えて部下に浸透させていくのは管理職の重要な役割です。しかし、実際にはなかなかできていないのが現状です」(藤沢氏)
今、部長や課長など管理職層のマネジメントのあり方をどう変えていくかが大きな課題になっている。
「時代が変わった、ビジョンが大事だ、イノベーションを生み出せ、などと言われても、人は急には変われないもの。上司からは今まで以上の成果を求められる一方で、部下は思うように動いてくれない。その板挟みで悩む管理職を数多く見てきました」
こう語るのは、NPO 法人日本サーバント・リーダーシップ協会理事長の真田茂人氏。右肩上がりの成長期には、過去の延長線として未来を描くことができ、経験豊富な管理職が常にビジネスを先導、部下もそれに倣ってきた。それが今は変わったという。
「今は過去の経験からだけでは正解を導ける時代ではありません。従来のやり方にこだわれば、部下もついてこず、ますます自分で仕事を抱え込むことになります。管理職のマネジメントのあり方を根底から転換しなければなりません」(真田氏)
(後編に続く)
企業の変革期に求められる最先端のマネジメント
入山章栄氏
早稲田大学大学院経営管理研究科准教授
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。著書に『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)など。
藤沢久美氏
シンクタンク・ソフィアバンク代表
国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。2000年にソフィアバンクの設立に参画。2013年より現職。静岡銀行や豊田通商の社外取締役も務める。「リーダー観察」がライフワークで、1000人を超えるトップリーダーを取材。著書に『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)など。
真田茂人氏
NPO 法人日本サーバント・リーダーシップ協会 理事長
株式会社リクルートなどを経て、株式会社レアリゼ設立。個人の意識変革を起点とした組織開発を強みとし、企業、行政法人、官公庁などで多数の研修導入、講演実績がある。サーバントリーダーシップの普及を通じ、グローバルに通用するリーダーの育成に注力。著書に『サーバントリーダシップ実践講座』(中央経済社)、『「自律」と「モチベーション」の教科書』(CEOBOOKS)など。