インタビュー・対談 テクノロジー AI(人工知能)は人間の働き方をどのように変えるのか【後編】

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テクノロジーによって生まれた富を
どのように分配するか

川崎

私たちの未来の仕事がAIに大きく影響を受けるということは間違いないこととして、それに向けて私たちはどのような準備が必要でしょうか。

オズボーン

どんなスキルを磨くべきかとか、どのような職業を選ぶかといったことよりも、富を分配するシステムをどのように構築するか、その設計が重要になってくると思います。先ほどお話しした通り、テクノロジーが失業者数を増大させることはないとしても、人々が望む仕事が増えるとは限りません。
おそらく、現在のミドルクラスの仕事は、不安定で賃金レベルの低い仕事になっていくでしょう。テクノロジーが発展するにつれ、テクノロジーと常に競う人々が生まれ、そうした人々は職から職へと転職を繰り返しているかもしれない。

川崎

人々がそうしたクラスにとどまらないように、教育の在り方を変える必要性も出てきますか。

オズボーン

もちろん、教育システムにも変化が生まれると思います。ただ、どんなシステムでもスキルの個人差が生まれます。AIやロボットに影響を受けないスキルや能力を取得できない個人を置いていくわけにはいきません。

川崎

全ての人々が望む仕事を得られるわけではないということは、現在も同じかもしれませんが、そこに大きな格差が生まれないような社会構造をどのように築くかが命題になってくるわけですね。

人間に協力的なAIを
生み出すために

川崎

話題はもう少し広い視点に変わります。オズボーンさんは、シンギュラリティ(技術的特異点)は起こるとお考えですか。

オズボーン

長期的に見れば起こると思います。ただ、バラ色の未来か悲劇的な未来かという二元論に陥ることなく、アルゴリズムを人間のために、真に協力的にすることが重要だと思います。人間の能力をAIに移植する段階において、彼らがどのようにして決断をし、どのような価値観を生み出すのか、複雑なシステムを診断するような機能が必要となってきます。また、AIの決断プロセスの透明性をいかに担保するかということも極めて大切でしょう。

川崎

先日、フェイスブック、グーグル、IBMといった企業が、業界の垣根を越えてAIの研究・普及に取り組むことが発表されました。これは個別業務に最適化されたAIから、人間と同様の幅広い能力を兼ね備えたAIへの移行が始まっていると捉えるべき動きでしょうか。

オズボーン

総合的なAIの誕生はエンジニアのビジョンとして確実に存在し、研究も進みつつあると思います。ただ、先ほどの話題とも重なりますが、強いAIにたどり着くまでにはまだ時間がかかると思います。もちろん研究は進んでいくと思いますが、ここ5年から10年というスパンでは、狭い領域でのタスクを最適化するAIが活躍していくでしょう。

川崎

AIの進化を抑制すべきかどうかという議論も盛んです。

オズボーン

エンジニアの立場で言えば、AIに限らずテクノロジーの発展は否定すべきではありません。インターネットやスマートフォンを例に挙げるまでもなく、これまでもテクノロジーによって多大な富が生み出されており、消費者がそこで大きなメリットを得ていることは明らかです。生存に直接関わるわけではないメリットのためにリスクを抱えるのかという意見もありますが、テクノロジーの発展により得られるメリットは消費者余剰だけではありません。交通事故を減らす技術、二酸化炭素の排出量を抑制する技術、人口問題を収めるさまざまな技術など、人類規模の社会課題を解決する上でテクノロジーは欠かせません。

川崎

古来私たちが手にしてきた武器も、身を守るためのテクノロジーでした。AIを人類にとって適切に進化させるためには、経済合理性や生活面の利便性でのみメリットとリスクを測るのではなく、長期的かつ広い視点での議論が必要ですね。

人材サービス会社による
AIの使い方

川崎

日本は世界でもいち早く超高齢社会に突入し、さらに少子化にも歯止めがかからない状況です。生産年齢人口の減少が大きな社会課題となり、女性や高齢者、障がい者を労働市場に呼び込むことでこの問題を乗り越えようとしています。しかし、オズボーンさんが言うように、大部分の仕事がAIで代替えできるのであれば、こうしたことも労働力不足への対策としては必須ではないという見方もできませんか。

オズボーン

テクノロジーの進化と問題の進行に時間的なずれが生じる以上、テクノロジー以外の解決策が必要です。例えば高齢者向けの介護ロボットの進化もまだまだ部分的ですし、「ケア」は感情を理解するという情緒的な判断も必要な分野です。そうした分野ではまだ、多くの人々がその労働に従事しなければならないでしょう。

川崎

人口減少は日本だけではなく、多くの先進国とも共通する課題です。テクノロジーに期待される点は大きいですが、それをただ待つのではなく、人間による解決を並行して進めていくべきということですね。

オズボーン

はい。そういう意味では刻々と変化していく仕事に対して、働き手と柔軟なマッチングを担う人材サービスに求められる役割も大きいと思いますが、そうしたニーズは具体化しつつありますか。

川崎

中小規模の企業では、労働力をいかに確保するかという点は大きな問題意識となっていて、具体的な相談も受けています。解決策としては働き手の多様なニーズを吸収して幅広く人材を紹介するということになりますが、不確実性が高い中では、全ての企業がそれを受容できるとは限りません。人材サービス会社に求められるマッチングの精度は以前よりも高まっていると感じています。

オズボーン

人材サービス会社がテクノロジーを駆使することの必要性も高まっていると思います。すでに部分的に試みている企業もあると思いますが、スタッフのモニタリングにAIを活用することによって、最適なパフォーマンスを実現するなどです。全ての企業とスタッフの組み合わせを、人材サービス会社のコンサルタントが定量的に、あるいは定性的に把握、評価することは難しいと思いますが、AIならより間近で把握することができます。パフォーマンスと仕事をAIが精査すると、企業から見たらどれだけ効率的に、スタッフから見ればどれだけ快適に仕事しているかなどが分かってくるでしょう。

川崎

確かにそのニーズはありますね。企業の評価、スタッフの属性や志向性、職務経歴などを分析するとベストの組み合わせを実現できる可能性は高まりますが、それを人材サービス会社のコンサルタントが個々に分析するには限界があります。個人情報の問題があり、評価に関してはなんらかのルールが必要となると思いますが、可能性を感じるアイデアですね。

オズボーン

エキサイティングなことは、ベストなスタッフが、ベストポジションに配置されるという働き方のシステム変革を人材サービス会社が実現するという点です。データサイエンスを駆使すれば、絶え間なくベストな働き方を追求するシステムが実現するでしょう。

人工知能は人間の働き方をどのように変えるのか

Profile

マイケル・オズボーン
Michael A. Osborne
英オックスフォード大学工学部 准教授

工学博士、英オックスフォード大学工学部准教授。2012年より現職。専門分野は機械学習。15年から同大学・技術と雇用研究プログラム共同代表。共著論文に「The Future of Employment(雇用の未来): How Susceptible are Jobs to Computerisation?』。人工知能が日本の労働力人口に与える影響の研究を野村総合研究所と実施し発表、注目を集めた。

川崎健一郎
Kenichiro Kawasaki

1976年生まれ、東京都出身。99年青山学院大学理工学部を卒業後、ベンチャーセーフネット(現VSN)入社。2003年事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、10年に代表取締役社長&CEOに就任。12年、VSNのアデコグループ入りに伴い、日本法人の取締役に就任。14年から現職、VSN社長兼務。