高い税負担ながら手厚い社会保障、フレキシブルな働き方、新ジャンルでのビジネスの立ち上げが続く市場――。
国民一人あたりのGDP調査でも常に上位にあがり、世界から注目を集める北欧各国。いくつかのテーマに分けて探ってみる。
profile
57年生まれ。80年、京都大学経済学部卒、住友銀行入行。調査第一部、経済調査部などを経て、92年日本総合研究所調査部主任研究員に。調査部長、執行役員などを経て現職。
日本でも「仕事と生活の調和」なくしては女性の活用や少子化を食い止めることは困難と、数々の制度の整備が進められているが、北欧のそれは歴史が違う。
労働組合が厳しく目を光らせる北欧では、所定の時間内で効率よく働くことを第二次世界大戦後から求め、「長時間労働」を排除してきた。週40時間労働制と、制度自体は日本と違いはないが、残業する概念がない上、最低5週間の有給休暇取得が法律で義務付けられている。デンマークとノルウェーも週平均33時間労働だ。
日本総研の湯元健治氏は「裁量労働制のため、子どもを園に迎えに行くため15時に退社してもいい。在宅勤務を認める企業も多く、貸与されたパソコンの起動時間から就業時間を算出。仕事のための時間の使い方は本人の裁量に任されています」
仕事と子育ての両立支援も盤石だ。1993年にノルウェーが導入した「パパ・クオータ制度」は、両親とも育休を取得することが前提。父親が育休を取得しないと母親が育休を取得する権利を失う。しかも育休中(44週間以内)の給料は100%支給され、ノルウェーでは父親の9割が育児休暇を取得する。同様の制度はスウェーデンでも導入され、父親の育休取得率は約8割に及ぶ。こうした制度があるためかスウェーデンでは、専業主婦世帯が約2%程度と非常に少ない。このような“全員労働参加”は、後述する税制や年金制度(詳細はこちら)などの施策が絡み合い成立している。
日本の社会は育児と仕事の両立が難しく、減少傾向にあるとはいえ、女性は出産適齢期である30歳代前半に退職してしまう「M字曲線問題」が根深く残っている。
一方、欧米、特に北欧では、女性の25歳から60歳まで労働参加率が一定で、こういった現象は見られない。国会議員や専門職、管理職などにおける女性の割合と、男女の推定所得などを用いて算出するGEM値(ジェンダー・エンパワーメント指数、下表)でも、日本が57位に対し、スウェーデンが1位、2位はノルウェーとなっている。
「北欧の人々は非常に合理的なものの考え方をします。人口の半分を占める女性に向けたモノやサービスを作るには、女性の能力を活用することが不可欠で、ひいては生産性が上がると考えています」(湯元氏)
その一つのあらわれが組織の構成員の4割以上を女性に優先的に割り当てる「クオータ制」だ。これにより発祥地ノルウェーでは、国会議員の4割以上を女性が占める。民間企業の取締役会においても、同様のクオータ制が06年から導入され、女性役員4割の実現も間近となっている。