高い税負担ながら手厚い社会保障、フレキシブルな働き方、新ジャンルでのビジネスの立ち上げが続く市場――。
国民一人あたりのGDP調査でも常に上位にあがり、世界から注目を集める北欧各国。いくつかのテーマに分けて探ってみる。
解雇が認められるということは、失業者の問題が生まれる可能性がある。だが北欧諸国は失業者対策も抜かりはない。「スウェーデンでは長年『積極的労働市場政策』を取り、手厚い教育訓練や就職紹介を重視、失業者の再就職に対し責任を果たしています」(湯元氏)
具体的には、TRRという再就職支援非営利組織が求職者にコーチングサービスを行ったり、将来性が見込まれる技術や知識の習得をサポートする。スウェーデンでは、90年代初頭、バブル崩壊とソ連の崩壊による影響で、経済が危機に直面して以来、国の成長戦略として、IT、医療、バイオ分野に注力している。このため、これら分野のスキル取得のプログラムが多数用意され、無料で受講できる。
また特筆すべきは充実した失業保険だ。
「失業保険基金には被用者のみならず自営業者も加入可能。さらに保険未加入者や受給条件を満たしていない人でも基礎保険が保障されます。また所得比例保険を活用すれば従前賃金の80%が200日間給付される仕組みもある(※詳細はこちら)」(湯元氏)
このように失業対策も充実しているが、死角がないわけではない。「『ラストイン・ファーストアウト』の言葉通り、最後に雇用された人=若年層をまず解雇、という傾向は北欧でも強く、若年層の失業率は他の年代よりも高くなっています。これを解決するため若年層の就業と訓練を組み合わせたプログラムがあり、若者を一時雇用する雇用主を助成する仕組みと合わせて運用されています」(湯元氏)
世界でも民主主義の発達した国々といえる北欧諸国では「自立した強い個人」の育成に力を注ぐ。この顕著な例の一つが「義務教育から大学、大学院まで原則無料」だ。その中で大学進学率が50%程度と高くないのは「とりあえず大学に行く」という発想がなく、大学で「何を学ぶか」がハッキリしているからだ。「実学志向が強く、学位は職業資格とみなされます。たとえば、法学部の専門コースを卒業すれば弁護士資格が自動的に与えられます」(湯元氏)
その代わり勉強はハード。大学で学ぶことはすなわち「強い目的意識、動機、結果を出す力」が必要になる。このため高校卒業後は何らかの仕事に就く、または知見を広げるために世界を旅するという選択をする若者も多い。さらに仕事に就いてからキャリアアップのために大学に進学する人も多く、30~40代の学生が3割以上もいる。
北欧では幼児教育も重視される。フィンランドの小学校はテストもなく、授業数も少ないにもかかわらず国際学力比較調査では常にトップクラス。この背景には、少人数制、高い教員のレベル、体験学習重視や早期教育などがある。「主体性を持った国民になるため学ぶことは一生続けるべきという意識が高く、幼児から学びの時間を持つのも特徴の一つです」(湯元氏)。
北欧諸国は人口が少なく、輸出依存型経済のため、グローバル志向が徹底している。そのため英語はもちろん、中学生から第二外国語を学び、4~5か国語を喋る人も少なくない。徹底した学びの環境で優れた人財が創出され、そういう人財で組織された企業が高い収益を上げる。こういった流れの中で国は成長し、整備された社会福祉が実現・継続できる──そんな好循環を形成しているのだ。