組織 仕事の未来 「ライフキャリア」の視点に立ったキャリア形成の大きな転換期にーキャリア自律/プロティアン・キャリア 2021年の雇用と労働⑤

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2021.03.17
「ライフキャリア」の視点に立ったキャリア形成の大きな転換期に 2021年の雇用と労働⑤

社会環境や日常生活に激変をもたらしたコロナ禍は、多くの人々にとって自分のキャリアを見つめ直す契機にもなった。個人がキャリア形成に自覚的に取り組んでいく「キャリア自律」の必要性が改めて強く認識されている。

キャリア自律を育むための考え方として「プロティアン・キャリア」論を提唱する法政大学教授の田中研之輔氏は、「個々のキャリア形成と、組織側の論理を混同しないことが第一歩」と話す。

「つまり日本では、課長から次長、部長に昇進したとか、A社からB社に転職したといった、履歴書や職務経歴書に書かれるような"異動履歴"こそがキャリアだと捉えてしまう人が多いんです。

しかし、それはあくまで組織側によるジャッジに過ぎない。キャリア自律のためには、組織に評価されることより、自分自身でキャリアを評価していく姿勢が大切です。例えば今回のコロナ禍で突然テレワークへの対応を求められ、戸惑った方は多かったはず。

しかしあのとき、先行きを企業任せにせず、自分はどんな主体的な行動をして何を得たのか? 肩書きの履歴ではなく、具体的な仕事や活動によって自分の中に何を蓄積できたのかと問いかける姿勢が必要になってきます」(田中氏)

キャリアを蓄積として把握するためのモデルとして、田中氏は「キャリア資本」の概念を提案する。同氏によれば、キャリア資本とは図1の3つの項目から成る。

図1 キャリア資本を構成する3つの資本

❶ビジネス資本 スキル、語学、プログラミング、資格、学歴、職歴などの資本
❷社会関係資本 職場、友人、地域などでの持続的なネットワークによる資本
❸経済資本 金銭、資産、財産、株式、不動産などの経済的な資本

企業内で求められる一般的なスキルや評価項目とは異なり、仕事以外での活動を通じて得たネットワークなども、キャリアにとって重要な要素として捉えられているのが特徴だ。そこでの新たな経験は、ビジネス資本や社会関係資本の蓄積につながり、いずれは経済資本に変わっていく可能性を秘めているからだ。

キャリア資本の考え方は、「ライフキャリアデザイン」にも通じる。人生100年時代を迎え、われわれは一つの会社、一つの業種・職種だけで仕事人生を終えることはますます難しくなっていく。会社員としてではなく、社会人としてどのように成長し、どんな人生を歩み、世の中にどう貢献したいのか。そのために、今の勤務先で自分の強みや専門性をどのように磨き、培ってきたか。また仕事以外の領域で、自分の生きがいやライフワークとして成し遂げたいことをしっかりと持っているか。人生全体のジャーニーマップをつくり、その達成のためにキャリア資本を蓄積していく。このような「ライフキャリアデザイン」の発想を持つことが重要になる。

また今後、日本でもジョブ型雇用を取り入れる企業が増えていくとみられ、それに対応していくためにもキャリア自律は欠かせない。自分の専門性を見極め、今後どんなキャリアパスを経てそれを磨き、発揮していくのか、自覚的に取り組む必要があるからだ。

「ジョブ型雇用への移行は、ビジネスパーソン一人ひとりのポテンシャルを高めていく施策の一つだと捉えるべきです。年功序列・終身雇用を前提とした日本のメンバーシップ型は、ある時期までは幸せな雇用形態でしたが、労働力人口の減少、そして人生100年時代に維持するのは難しい。

しかも働き手がやりがいを感じられていないのが大きな問題です。経済的な見返りだけではなく、仕事そのものが楽しいといった実感がないと、何十年も働き続ける雇用はもたない。その意味でも、キャリア資本を重ね、自分の人生を充実させていく発想は、ジョブ型雇用においても働き手にとって大きな支えになると思うのです」(田中氏)

Profile

田中研之輔氏

田中研之輔氏
法政大学キャリアデザイン学部教授

一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員を務める。博士(社会学)。専門はキャリア開発。民間企業の取締役、社外顧問を22社歴任。著書25冊。大学と企業をつなぐ連携プロジェクトも数多く手がけている。著書に『プロティアン』(日経BP)、『ビジトレ』(共著、金子書房)他多数。