組織 仕事の未来 コロナ禍が浮き彫りにした社会的意義と処遇―エッセンシャルワーカー 2021年の雇用と労働①

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2021.02.10
コロナ禍が浮き彫りにした社会的意義と処遇―エッセンシャルワーカー 2021年の雇用と労働①

コロナ禍に伴って2020年に注目を集めたキーワードとして挙げられるのが、「エッセンシャルワーカー」だ。

人間の生命や暮らしを守るのに欠かせない仕事に従事する人々を指す言葉で、医療関係者をはじめ、食料品店の販売員や物流の配達員、保育・介護の職員、清掃や警備の従事者など幅広い職種がこれに当たる。コロナ禍において感染リスクを背負いながら働いているが、待遇は必ずしも良いとはいえず、慢性的な人手不足となっている。独立行政法人労働政策研究・研修機構の労働政策研究所長、濱口桂一郎氏はこう話す。

「以前からあった職種ですが、これまでその重要性や処遇について議論されることがあまりありませんでした。コロナ禍を契機に『エッセンシャルワーカー』という言葉によってその概念や重要性が広く認識されたのは、2020年の大きなトピックだと考えています」

過度な残業を抑制して労働時間を削減し、同一労働同一賃金によって待遇差を是正していくといった一連の働き方改革の考え方は、エッセンシャルワーカーの待遇改善にもつながるものだ。所得改善が進めば購買力の向上につながり、新たな内需の基盤を生み出すことにもなる。

「エッセンシャルワーカーはリスクに直面しながらわれわれの生活を支えてくれているのだから、待遇改善を図るべきではないか」という機運が、国内でも自然な感情として湧き上がりつつあると日本総合研究所の副理事長、山田久氏は指摘する。

「スーパーなどの流通業界では、人財需要が高まっていることを受けて店舗のスタッフに対し特別ボーナスを出している例もあります。しかしこうした動きは全体で見ればごく一部。民間医療機関ではコロナ禍で来院が減って経営が悪化しているケースが目立ちます。待遇改善は容易ではなく、離職者も少なくありません。現状の働き方改革の枠組みを超えて、労働の社会的な価値に対して正当な賃金をどう設定していくべきかが問われています。コロナ禍で浮上したこの問題をしっかり受け止め、私たちは今後『働き方改革の"Version 2"』を再設計していかなければならないのでしょう。政策だけでなく、価値観の変革も欠かせません。

企業経営者らがエッセンシャルワーカーの待遇改善がもたらす社会的な意義を広く発信していくことも大切です」(山田氏)

濱口氏は、エッセンシャルワーカーの仕事はAI(人工知能)やロボティクスなどによって代替されにくく、中長期的にはこの領域に多くの労働力が流入していくと指摘する。

「その意味でも、どのような経済的・社会的メカニズムで処遇の改善を図っていくかは、今後政策的に重要な論点になっていくでしょう」(濱口氏)

Profile

濱口桂一郎氏

濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構
労働政策研究所長

東京大学法学部卒業。労働省(現厚生労働省)入省。
東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働き方改革の世界史』(筑摩書房)。

山田久氏

山田久氏
日本総合研究所 副理事長

京都大学経済学部卒業後、1987年に住友銀行(現・三井住友銀行)入行。経済調査部、日本経済研究センター出向を経て、1993年に日本総合研究所調査部出向。調査部長兼チーフエコノミストなどを経て2019年より現職。2015年、京都大学博士(経済学)。著書に『賃上げ立国論』(日本経済新聞出版社)など多数。