若者が“安定志向”に走るのには理由がある

若者の仕事観、私はこう捉える

Youth side 若者が“安定志向”に走るのには理由がある

若者が定職に就かないのは、就業意欲が低く、根性がないからだ―。一部のシニア世代は、昨今の雇用問題の原因を若者に押しつけがちだ。だが年間3000人もの若年者の就労支援をする「育て上げ」ネット理事長の工藤啓氏は「それは問題を個人のせいに矮小化しているだけ」と指摘する。「今の大学生の半分は奨学金ユーザー。それだけ親の経済力は低下しています。実際、私たちの組織には、面接のためのスーツを買ったりハローワークに通う費用に困る大学生、インターンシップをしたくても、その間バイトができない=一定期間無給となるため、挑戦できない人などがたくさんたずねてきます。こうした現実を無視し『やる気のない人は放っておけ』の一言で個人の問題として片づけるのは暴論です」と工藤氏は語る。

多くの若者と接してきた工藤氏は、就職していない若者には「3つの資本」のいずれか、あるいは全部を獲得する経験が不足していると言う。その3つとは、1つは親の財力などの“経済資本”、2つ目は親子間や友達との関係性などを司る“関係資本”、3つ目は基礎学力や生活の中でのトピックス(趣味)がないなどの“文化資本”だ。「この3つの資本には相関関係があります。たとえば経済資本がないから文化資本が蓄えられないとする。そうすると周りとのコミュニケーションに支障が生じ、友人ができにくく、関係資本が構築できない。あるいは関係資本がないため、就職しても人間関係でつまずき辞めてしまうーなどです」。つまり、この「3つの資本」を強化する支援をすれば、若者の就職や就労がよい形で変化していく場合が多い、と工藤氏は語る。

もっとも今の若年層は、幼少期から今までを不況下で育ち、いきいきとした大人や社会に接する機会が少なかったせいか「働くということにポジティブな印象を抱いていない」風潮が、共通して見られるそうだ。だから、ほとんどの人が「安定した会社に入りたい」と思っていると言う。「この若者の安定志向を捉えて、覇気がない、と批判する人もいますが、安定を求めることは人としては根源的な欲求。衣食住を確保し、ちゃんと生活することを求めるのはいつの時代も当たり前のことと思います」

ちなみに企業が望む人財として掲げる「チャレンジングな職場に飛び込みたい」「自分がやりたいことを突きつめたい」といった、挑戦意欲が高い若者は「家庭環境が裕福で留学や新しい挑戦をしやすい環境など、もともとすべての資本力を高めやすい環境がある」のが実情なのだと言う。「いろいろな若者がいますが、安定志向の若者は少なくありません。企業は、たとえ非上場の会社でも財務状況を開示するなど、“若者が安心できる”であろう情報を提供していくことも、採用戦略としては必要なのだと思います」

そして採用後は、若者と社内外の他者との距離を縮めて「関係資本」の強化に努めてほしいと、工藤氏は強調する。「 職を得たとしても、企業のなかで『関係資本』が薄いままでは、若者とのギャップは埋まらず職場への定着に問題を来します。若者が継続してスキルを高められる環境作りを企業の中で推進してほしいと思います」

特定非営利活動法人「育て上げ」ネット 理事長
工藤 啓氏

profile
1977年生まれ。米国Bellevue Community College卒業。2001年、任意団体「育て上げ」ネット設立。04年 NPO法人化。金沢工業大学客員教授。『大卒だって無職になる “はたらく”につまずく若者たち』等著書多数。