インターンシップが盛んな米国では、「インターン経験のない新卒者の就職は難しい」とさえ言われている。「インターンは就職の必須条件です」と話すのは、ニューヨーク大学就職課企業担当ディレクターのダイアナ・グルーバーマンさん。全米大学雇用者協会(NACE)の調査によると、2012年度新卒採用のうち、インターンとして働いた企業に就職した学生は3分の1以上を占め、インターンを経験した学生の正社員雇用率は50%近くに上る。ニューヨーク大学でも、その数は増加しているという。
インターンが重視される背景には、米国が抱える深刻な若年層の労働問題が潜んでいる。学生と企業のインターンマッチングサイトInternships.comを運営するキャリアアークグループ社CMOのスチュワート・ランダーさんは、「新卒者は“学生ローンの負担増”“若年層の高失業率”“就職活動の長期化”という3つの試練に直面しています」と話す。アメリカの学生は大学の学費を親に頼らずローンで払うことが多く、昨今の学費高騰が新卒者の経済的負担を増加させている。そのうえ、大学卒業後すぐ直後に就職できる人は少なく、一般に卒業後1~2年まで「新卒」として就職活動を行っているのが現状だ。
ニューヨーク連邦準備銀行の調査によると、大卒以上の学歴を持つ22~27歳人口の失業率と不完全雇用率を合わせると50%を超える。良い職に就くために高額な学費を払い、大学を卒業しても、ローン返済に追われ、アルバイトをしながら就職活動をする新卒者が後を絶たない。こうした問題を解決するためにインターンがあるとランダーさんは言う。「インターンは長期の面接のようなものです。正社員雇用率の高さから見て、最も効率的な就職活動といえるでしょう」
インターンシップは、学生と企業両者にとってメリットがあると考えられている。ニューヨーク大学就職課のグルーマンさんは、「学生はインターンシップを通して大学で学んだ専門知識や対人能力を実社会でどう活用できるかを試すことができ、企業はインターンシップを実雇用の前の試用期間と考えています」と話す。また、Internships.comのランダーさんは、「企業にとって新卒採用は、会社の将来を決定付ける重要な業務である一方、コストもかかります。多くの候補者の中から才能ある人財を発掘するにはインターンが最適です。学生も、やりたいことがその企業や業界で実現できるのか見極めるために、インターンを希望しています」と言う。
インターンには有給・無給、短期・長期、フルタイム・パートタイム、大学の単位の取得有無など、さまざまな種類があるが、近年人気が急増しているのが、自宅からコンピュータ上で仕事する「バーチャルインターン」だ。米国は国土が広く、都市部から離れた場所にある大学が多いため、学生は夏季・冬季休暇を利用して企業の近くに滞在しながらフルタイムのインターンを行うことが多い。バーチャルなら学期中でも授業のない時にパートタイムで仕事ができるため、希望者が増加しているという。
一方で、インターン制度の問題点も浮き彫りになっている。インターンでの仕事内容や待遇は企業ごとに異なるが、「無給で雑用をさせられた」として、インターン生が大企業を相手に、最低賃金法違反の訴訟を起こすケースが近年増加しているのだ。判決はおのおの異なるが、インターン生に賠償金を支払い和解した企業もある。有給インターンの正社員雇用率63%に対し、無給は37%というNACEの調査結果からも、無給インターンの意義が今問われているといえよう。一方、人気のある業界では給与よりも職務経験を求める学生は多く、有給化によりインターン募集が減少する可能性を懸念する声もある。「インターン制度を成功させる秘訣」として、キャリアアークグループ社では事前の入念な計画を、NACEでは競争力のある賃金提示と職務内容の充実を企業に勧めている。
田中めぐみ FBC Sustainable Solutions, LLC