濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長
東京大学法学部卒業。労働省(現・厚生労働省)入省。東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働き方改革の世界史』(筑摩書房)。
新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われて丸3年が経過した。2023年に入って再び新規感染者数が過去最多を記録するなど、まだまだ収束が見通せない。加えて世界経済は分断を深め、先行き不透明な状態が続く。日本国内では物価高に加え、人手不足も大きな課題だ。これらを乗り越え、デジタル化や脱炭素などの大きな潮流に対応していくことが求められている。
同時に働き手の力を最大限に発揮させることが欠かせない。今後、経済活動が回復軌道に向かうなかで、日本型雇用の見直し、シニア層の雇用促進、外国人労働者の受け入れ拡大、フリーランスの保護など、これまで働き方改革の文脈で語られてきたテーマが再び活発に議論されていくことになりそうだ。
2023年の雇用・労働の動向を、キーワード別に専門家に語っていただいた。
2021年に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となった。
厚生労働省は22年6月、シニア雇用に関する21年時点の調査結果を公表しており、70歳までの就業機会確保のために何らかの措置を実施した企業は、全体の25.6%にのぼった。大企業に比べ、人手不足感の強い中小企業の方が、措置を実施した割合がやや高くなっている。
「統計を見る限り、努力義務であるにもかかわらず、各企業とも積極的に高齢者の雇用維持に取り組んでいるようです。大企業と中小企業でそれほど大きな差もありません。その意味で、シニア世代の働く場を維持する機運は着実に広がっていると思います」(濱口氏)
具体的には、継続雇用制度の導入や定年制の廃止、定年の引き上げ、創業支援等措置の導入を取り入れている企業が多いが、今後増えそうなのが副業・兼業の活用だと濱口氏は話す。
現状では、企業に勤務する人が副業・兼業を行う場合、副業・兼業先での労働時間や残業時間を本業と通算して管理する必要がある。これは企業も働く個人も負担が大きい。
「そのため、雇用型の副業・兼業はそれほど広がらないでしょう。一方、自営業者として本業以外の仕事をする場合は、この規定が適用されないので、自営・フリーランス型の副業・兼業が増えていくと考えられます。これはシニア雇用の新たな受け皿としても有効です。例えば定年前の50代後半から60代前半で自営業者として副業・兼業を始め、徐々に比重を高めて定年を迎えたら完全にシフトする。さらに企業側も支援していけばシニア層の新たな就業機会の確保に活用されていくのではないでしょうか」(濱口氏)
濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長
東京大学法学部卒業。労働省(現・厚生労働省)入省。東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働き方改革の世界史』(筑摩書房)。