濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長
東京大学法学部卒業。労働省(現・厚生労働省)入省。東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働き方改革の世界史』(筑摩書房)。
新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われて丸3年が経過した。2023年に入って再び新規感染者数が過去最多を記録するなど、まだまだ収束が見通せない。加えて世界経済は分断を深め、先行き不透明な状態が続く。日本国内では物価高に加え、人手不足も大きな課題だ。これらを乗り越え、デジタル化や脱炭素などの大きな潮流に対応していくことが求められている。
同時に働き手の力を最大限に発揮させることが欠かせない。今後、経済活動が回復軌道に向かうなかで、日本型雇用の見直し、シニア層の雇用促進、外国人労働者の受け入れ拡大、フリーランスの保護など、これまで働き方改革の文脈で語られてきたテーマが再び活発に議論されていくことになりそうだ。
2023年の雇用・労働の動向を、キーワード別に専門家に語っていただいた。
外国人労働者数は近年堅調に伸びていたが、コロナ禍による入国制限により、2020年以降急激に鈍化した。22年3月には入国制限が緩和されたが、今後順調に回復するかは不透明だ。政府は外国人の就労に関する技能実習制度の抜本的な見直しを計画している。
これまで技能実習制度は、外国人労働者の受け入れのための主要な枠組みとなってきた。「開発途上地域などへの技能、技術、知識の移転によって国際協力を推進する」という名目で1993年に導入された制度であるが、実際には国内の人手不足を補う重要な労働力調達手段として活用されてきた。しかし、法的な位置づけが曖昧だったこともあり、違法な長時間労働や賃金不払いなどのトラブルが多く、海外から人権侵害にあたると批判されていた。
こうした事態を抜本的に見直す狙いで、2019年に施行されたのが改正出入国管理法である。これにより、特定産業分野において相当程度の技能水準を持つことなどを条件に、日本国内で就労可能となる「特定技能」という在留資格が新設された。政府は今後、より円滑な外国人受け入れが進むよう、技能実習の廃止や特定技能との統合も視野に入れ、制度の見直しを進めていく見通しである。
「もともと技能実習制度は、外国人を『労働者』ではなく、『研修生』として受け入れるという制度で、長年、その矛盾がたびたび指摘されてきました。しかし、特定技能という制度が導入されたことを契機に、本来目指すべきだった外国人労働者受け入れの仕組みがようやく整いつつあります」(濱口氏)
しかし、法整備が進む一方で、外国人にとって日本の魅力が相対的に低下してきたことが課題だと濱口氏は話す。
日本経済研究センターの試算によると、ベトナム、中国、インドネシアなど5カ国の工場労働者の現地給与は、32年までに日本の賃金の50%に達する見通しだという。円安傾向が引き続き強まれば、労働者として来日するメリットはさらに失われていく。
「政策的には『外国人労働者を積極的に受け入れる』としながら、外国人の方々が働きたくなるような環境の整備が遅れていました。人手不足が深刻化するなか、受け入れのあり方についての課題は多く残ります」(濱口氏)
濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長
東京大学法学部卒業。労働省(現・厚生労働省)入省。東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働き方改革の世界史』(筑摩書房)。